温泉で、パジャマパーティー｜リアクション

温泉で、パジャマパーティー

　【３】
　やがて夜も更けた。
　パーティーはどの部屋でも自然とお開きになり、誰もが眠りに落ちる中。
　『松の間』では、真央と夏朝がまだ起きていた。
「『なめこの山』も『つちのこの里』も美味しい」
　持って来たお菓子をつまみつつ、夏朝がややハイテンションな声を上げる。
　とはいえむろん、他の四人はすでに眠っているので、それに配慮してさほど大きな声ではなかったけれど。
　先程からの二人の話題は、猫だった。どちらも猫好きなので、それだけで話は弾む。
「猫さん、いいよね……。がおーちゃんもふくふくで可愛い！」
「おネコさまは、全て至高なのだ。激しく同意なのだ」
　夏朝が言えば真央も大きくうなずいて、学校の登下校に出会う猫たちのことやら、夏朝の猫シールのことまで、あれはどこが可愛い、どこが面白いといった話をするといった次第だ。
　そんな中、ふと真央が別のことを口にする。
「夏朝ちゃん、優しいけどたまにすっごくクレバー？　勇敢？　な感じがする時があるのだ。でもいつも人助けに奔走している優しいイメージなのだ」
「クレバー？　……もしかして、夏夜ちゃんが――」
　言いかけて夏朝は、しまった……と口元を押さえる。
　夏朝の中にはもう一人、別の自分――夏夜がいるのだ。
「どうかしたのだ？」
　怪訝な顔で真央に問われ、しばしの逡巡のあと、彼女になら話してもいいかと、夏朝は口を開いた。
「僕の中には、もう一人、『冷徹な僕』といっていい別人格がいるの」
　原因はおそらく、中学生時代前半。そのころのことは、いまだに一部しか思い出せないが、夏朝の中には確信があった。
　そして、その『冷徹な僕』――夏夜は、今年の夏以降、何回か彼女が意識を失った間に表に出ていたに違いなかった。
　夏朝はそれらのことを真央に話すと、言った。
「パン食い競争の前に転んで……気づいたら完走後で。その時は、夏夜ちゃん出てたと思う」
「そうだったのだ……」
　さすがの真央も、これには驚いて目を見張る。
　だが、同時に彼女がそうしたことを、自分に話してくれたのがうれしかった。
「夏朝ちゃんに助けてもらった時、人はこんなことできるんだって感動したのだ。あれから、夏朝ちゃんみたいになりたい、もっとお話したいって思ってたのだ。だから、そんなふうに、話してくれてうれしいのだ」
　言って、真央は続ける。
「夏朝ちゃんも夏夜ちゃんも、お互いを大事に思ってる気がするのだ。真央ちゃん、夏朝ちゃんとも夏夜ちゃんとも、もっとお友達になりたいのだ」
「後木さん……！」
　それを聞いて、夏朝もまた目を見張った。
　真央は、自分とだけではなく、夏夜とも友達になりたいと言ってくれたのだ。それは、夏朝自身だけではなく、夏夜のことをも彼女が受け入れてくれたということだった。
「もちろん……僕も、後木さんともっと仲良くなりたい！」
　言って、夏朝は真央の手を取った。
「きっと夏夜ちゃんも、後木さんとなら友達になれると思う」
「ありがとうなのだ」
　真央はその手を握り返して言うと、うれしそうに笑い返す。
　そのまま二人は、眠くなるまで隣合って話し続けた――。

このページにイラストを設定する