金よ、こい｜リアクション

金よ、こい

　chapter.1　学生編（1）　

　学生。それは金欠の代名詞のようなもの。
　バイトでお金を稼いでも遊んでいるうちに財布はすぐ空になり、次の給料日を血走った目で追いかける。それが学生だ。いや、多少偏見は入っているかもしれないが大体合っているはずだ。
　給料日を目前にして、今にも金欠で力尽きそうな者たち。
　一体彼らはどうやってこの危機を乗り越えるのか。その一部始終を見てみよう。

◇

「仕送りまで100円ちょっとでしのげるのか……？」
　お昼。
　月山輝一はへこむお腹を押さえながら呟いた。彼は、自転車の両輪が釘を踏み抜くという不運極まりないアクシデントに見舞われ、修理費用を払った残金が大変残念なことになっていた。
　唯一の幸運は、輝一がそれに気付いたのが昨晩の話だったということだ。
　まだ晩ご飯を食べ終えていなかった彼は、咄嗟に食べかけの晩ご飯を残して冷蔵庫へと入れた。それを朝ご飯にすることで、ひとまず今朝を乗り切ったのである。
　先ほどは弱気な言葉を漏らしてしまったけど、輝一の心はしっかりと次の仕送り日まで生き抜くことを決めていた。
「今は、このお金でどうにかするしかない」
　そして、その「どうにか」の手段として彼は学食を選んだ。ただ、来たところで買えるメニューはない。彼の目的は、定食や丼なんかではなかった。
「……俺には、これしかないんだ」
　言って、輝一は歩く。その足は、たくさん積まれたカップの前で止まった。いや、正確にはその隣。セルフサービスの飲み物コーナーだ。
　輝一はカップをひとつ手に取り、「お茶」のボタンを押す。これが彼の考え出した、この状況における無銭で口にものを入れられる方法である。一応世間体を考えて、「食べ物も買って食後のお茶ですよ」感を醸し出すのも忘れない。涙ぐましい努力だ。
「うう、これで放課後まで持つのだろうか……」
　しかし、当たり前だけど、お茶だけでお腹はたいして膨れない。
　そんな様子を目撃していたのは、同じ学食内にいた佐藤英二だった。といっても、「あの人必死でお茶飲んでるなあ」なんて思って見ていたわけではない。
　彼は、輝一がセルフサービスのコーナーから離れるのを待っていたのだ。要するに順番待ちだ。彼もまた、金欠による食糧難に苦しみ、液体でお腹を満たそうとする中のひとりだったのである。
「あ、ごめんな」
　後ろに英二が立っていることに気付いた輝一は、その場を離れた。
「ううん、こっちこそ急かしたみたいでごめんよ」
　ふたりは互いに軽い会釈をし、別れる。そして英二は、その喉に水を流し込んだ。
「人間、水と塩分があれば一週間くらいは生き延びられる……とは聞いたことあるけど、やっぱり物足りないかなあ」
　おそらく2日くらいであれば、水の大量摂取で乗り切れそうな気もしなくもない。ただ、可能なら少しでも食べ物を摂取したい。
　英二は小考の後、飲み物以外をただで手に入れる方法を思いついた。
「そうだ、あそこなら……！」
　もう一杯水を飲み、学食を後にする。彼の心はもう、放課後を見据えていた。
　ちなみに彼が金欠になったのは廃版でプレミアムな本を見つけて買ってしまったが故だった。お陰でこのようにほぼ無一文状態だが、後悔はしていない。
　欲しいものが手に入ったから。そして、これから欲しているものが手に入る算段もついたから。

　一方、教室に戻った輝一が見たものは、お弁当箱の中身を大事そうに一品一品食べている白真白だった。その本気オーラに一瞬気圧された輝一は、すっと後ろを通り自分の席へ戻る。その時、輝一は彼女の独り言を耳にした。
「あ、もうなくなっちゃう……あとは今日の夜と明日の昼、夜をどうするか……」
　その言葉で、なんとなく自分と近い境遇なのかなと察する。そしてそれは当たっていた。
　真白は趣味であるカードゲームで散財してしまい、ひもじい思いをしていたのだ。朝は抜くと決めたので食費は昼と夜の分だけ勘定すればいい。
　いい、のだけど、今日の夜と明日をどう凌ぐか、決めかねていた。
　ちなみに今日のお昼ご飯は、家に偶然残っていた食べ物をかき集めて一食分をどうにか作り出したのである。
「うーん……いい案が思いつかない」
　真白は打開策を見つけられずにいた。
　いや、正確には心の奥底にある策に気付いていた。ただ、きっとそれに気付いていないふりをしていたのだ。なるべくなら避けたい。そんな手段だからだ。
　空になった弁当箱を見つめ、真白はひとり、うんうんと唸るのだった。

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金よ、こい

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