寝子島百物語｜リアクション

寝子島百物語

「真央ちゃんは後木真央と――」
　倒れた人形を元通りに立たせ、己の名を告げようとする真央の腕を、碓氷真理はきつく掴む。
「名残をわざわざ作り出すな。成仏できるものも出来なくなる」
「でも、手紙をくれた子の名前くらいは」
「もう、帰れ」
　戸口で待つ少年に少女を引き渡し、真理は家屋の何処にも人の気配が残っておらぬことを確かめる。『友達』に手を振り、古びた引き戸を固く閉ざす。
　家に宿るナニカの鎮魂作業に取り掛かる霊媒師の女性の後ろ姿を、枯れ芒の被さる飛び石の上に立ってしばらく眺め、八神修は踵を返す。半ば外れて錆びた門扉を押し開けたところで、人形に供えていた花あられの御下がりを出て行く人々に配って幽霊のように静かに佇む久須部紀伸と目が合った。
「どうぞ、真央さん」
「ありがとなのだ」
　悄然と肩を落とし、それでも貰った花あられを頬張る真央の背中を叩き、修は背後を振り返る。
「……ッ？！」
　鎮魂に掛かっていた真理が小さく声をあげた。
　水に溶けるように、家屋の輪郭が歪む。つい先ほどまで人々をその内に閉じ込めていた民家が、夜陰にまるで溶け込むように消えかけて、――ふと。元通りの何の変哲もない空家の姿を取り戻す。
「え？　え？」
「……NMRに使うのはやめるべきだな」
　混乱するばかりの真央の隣で、修は怪談会の終始を映したビデオカメラやデジタルカメラを再生する。
　白い光を闇に放つデジタル機器の画面が映すのは、けれどどれも砂嵐ばかり――

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あとがき

担当マスター：阿瀬春
ファンレターはマスターページから！

　お待たせいたしました。
　寝子島百物語、お届けにあがりました。
　伝奇的なお話があり、怪談話があり、不思議でちょっぴり可愛いようなお話も切ないお話もあり、どのお話も、怖くて不思議で楽しいお話でした。
　色んな方の色んな力が働きまして、こんな感じのお話となりました。
　少しでもお楽しみいただけましたら幸いです。

　あと、少しでも恐がっていただけましたら。……とはいえ、恐怖を感じたとしましたら、それは語り手さんのお力によるものです。

　ご参加くださいまして、読んでくださいまして、ありがとうございました。
　またお会いできましたら嬉しいです。

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