蜘蛛の巣のような無数のヒビが走る石塀の前、
久須部 紀伸は足を止めた。
薄墨色の髪を晩秋の夜風に揺らし、痩せた顎をもたげる。
月のない夜道を頼りなく照らす街灯の光の輪の端、夜闇よりももっと濃い、瘴気とも見紛うばかりの闇を纏って、古い廃屋が一軒。
錆を浮かせ外れ掛けた門扉には薄汚れた『売家』の看板。看板を覆い隠そうとするかのように、手入れもされずに伸び放題の紅葉や木蓮の樹木。盛りを終え腐肉の如く爛れた萩の花と、白骨のように枯れ果てた薄の穂。
楕円眼鏡の奥の群雲の色した瞳を瞬かせ、紀伸は手にした和紙に視線を落とす。明滅する街灯の光を頼りに、和紙の端に綴られた住所を読み取る。
「……間違いありませんね」
幼い文字で記された住所は、紛れもなくこの廃屋を示している。
以前、取材の為に訪れた際には、不可思議な力によって奥の間に閉じ込められた。様々の怪現象を眼に耳に捉え、その様を絵に書き起こした。
「さて、」
呟いて、もう一度草生した廃屋を見遣る。
数百の手じみて垂れる草木の帳の向こう、閉ざされた格子戸の奥にふわり、蒼白く揺れる光を見た気がして、紀伸は愉しげに瞳を細める。
赤錆びた門扉に掛けた手には、黄昏時の郵便受けに見つけた一通の手紙。
『おはなしを おしえてください』
『ふしぎな おはなし』
『こわい おはなし』
『ねこじまの おはなしを きかせてください』
『たくさん たくさん』
白い和紙に黒のクレヨンで書かれた文字は幼く、文章は拙く、平仮名混じりの住所と共に書かれた地図と日時は判別が難い。
廃屋の中、誘うように笑う幼い声を聞いた気がして、紀伸は眼鏡の蔓を指の腹で押し上げる。
「……どうしましょうか」
こんにちは。阿瀬 春と申します。
らっかみタイムは晩秋なのですが、現実時間はそろそろ夏です。暑いです。
そういうわけで怪談会、いかがでしょうか。
ガイドには久須部 紀伸さんにご登場頂きました。
ありがとうございます。
もしご参加頂けます場合は、ガイドはサンプルみたいなものですので、ご自由にアクションをかけてください。
さて。
不思議な手紙があなたのもとに届きました。
もしくは、手紙が届いた友達に声を掛けられたもののその友達が逃げた、とかでも。
ともあれ、手紙に導かれてあなたが訪れたのはシーサイドタウン、寝子高校近くの住宅地の片隅。忘れ去られたようにぽつんと建つ、二階建ての日本家屋です。
格子戸を開けると、真直ぐ続く廊下には、ぽつりぽつり、奥座敷に案内するかのように小さな灯篭が置かれています。
二階に上がる階段の半ばには、行く手を塞ぐように首のもげた布人形が捨てられてあります。
黴臭い風呂場や、真っ暗な和式トイレや、古井戸のある中庭なんかもありますが、このあたりは今回は雰囲気作りとさせてください。家中ぐるっと見て回ってもいいですが、怖いだけです。
今回の主目的は、奥の座敷での擬似百物語です。
二十畳はある広い座敷には、いくつもの蝋燭が灯されています。蝋燭の輪の一端には、日本人形が一体。みなさまのお話に耳を傾けるようにじっと立っています。
とはいえ、すみません、典型的な恐がりの恐いもの好きなので、あんまり怖いお話にはならないかもしれません。ほんのり怖い、ができればと思っております。
でも、よろしければ、寝子島に伝わる怪談や都市伝説や、PCさんの体験されました不思議なお話、お聞かせください。
ご参加、懐中電灯を顔の下から照らしながらお待ちしております。