＜鈴島海賊の秘宝III＞海へ｜リアクション

＜鈴島海賊の秘宝III＞海へ

●過去を紐解く・２

　宝の島から鈴島へ帰郷の途についた紅梟号は、その航海の途中、漆黒の海蛇号の襲撃に遭った。
　やむに已まれず小舟で脱出したコウの娘以下鈴島海賊の船員たちは、何日も海を漂ったのち、外国の商船に助けられ、そのままその船で世界中を旅することになった。
　コウの娘もまた、遠い外国の港を転々としながら船乗りとしてすくすくと成長した。そして年頃になると、寝物語に他の鈴島の仲間たちから幾度も聞いた＜宝の島＞の話に強い興味を抱くようになった。じっさい、父も母もない娘にとって、宝の島の話は唯一の両親との繋がりでもあったのだろう。娘は大人になり自分の船を手に入れた。そして仲間たちと航海に出た。伝え聞く＜宝の島＞を探すために――。

「……この船の名が『シーノ』。私たちシーノのはじまりだったそうよ」

　梨香の話を聞き、あやめは紙に書き記した。

　＜コウの死から数十年後、鈴島海賊の生き残り、シーノを興す＞

「ところが、宝の島は簡単には見つからなかった、って話だよねー？」
　飛鳥が言った。
「そう。ただ、紅梟号を小舟で脱出する際、宝の島から土産にと積んでいた宝の一部を持って来ていたので、それを細かく売り払ったりしていて資金には困らなかった。それに冒険の途中で別の宝と出逢うこともままあったようよ。そのうちシーノは名が売れ始め、一攫千金を求める人々がすこしずつ集うようになった。組織として大きくなって行ったの」
　コウが問う。
「娘は……故郷に、鈴島に戻ってきたのだろうか……？」
「わからない。その頃日本は鎖国してたから……。私が調べた限りでは、＜シーノ＞が鈴島に来たのは戦後、という記録が残っているわ。そのとき鈴島、或いは、寝子島になにか手がかりがあるんじゃないかと徹底的に調べたようね。自分たちが鈴島海賊の流れを汲んでいるということは伝わっていたし」
「でも、目ぼしいものは見つからなかったんだねー？」
　飛鳥がまとめると梨香は頷いた。
「結果から言うとそうなるわ。寝子島周辺はその後しばらく捜索の対象から外れていたから。でも、最近になって、寝子島で不思議なことがよく起こるようになったと聞き、改めて調べてみる気になったのね」

　それで起こったのが、かの＜夜の女帝号事件＞であったらしい。

「それで、梨香せんぱいはどうするの？」

　問いかけたのは、海に支えられて現れた円だった。
「宝島の人が宝を渡す事を拒んだらシーノとしては如何するの？　ボクは、……いままでのこと、冒険としてしか考えてなかった。でも、引けない人は居る」
「あなたの考えは、桜庭さん？」
「ボクとしてはコウさんと旦那さんの関係をみても穏便に尊重してあげて欲しいかな」
　円はじっと、梨香の胸元の＜魔法使いの目＞を見つめる。
　梨香はしばし黙していた。
「……シーノとしてどうするか、と、梨香個人がどうするか……それが同一にならない可能性があることを、あなたたちに伝えておかなければいけないわね」
「どういうこと？」
　梨香はひとつため息をつく。
「シーノに言ってない、ってこと。私の独断行動なの。今回の事は」
「でも、リンコさんは？」
「あの人は味方。力になってくれてる。……私、今のボスのやり方が嫌いなのよ。あの男はなんでも力付くで奪えばいいと思っている。この＜宝の島＞を見たら、すっかり奪い尽くすつもりになるに違いないわ」

（この＜宝の島＞？）

　話を聞いていたみゆきは、梨香の言葉にひっかかりを覚える。
　そういえば。
　何故、リ・ボーン号のみんなもここにいるんだろう？
　何故、船は揺れていないんだろう？
　何故、私たちは生きているんだろう？

（まさか――？）

　豪を見上げる。
「私たち、もう宝の島にいるの？」
　すると豪はにかっと笑った。
「気付いちまったか。悪い、びっくりさせようと思ってさ」
　そしてみゆきの手を握る。
「さ、甲板に行こう。その目で見てみたらいいぜ」

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