のんびり猫の小道｜リアクション

のんびり猫の小道

●ほんのり、恋のかほり？

　寝子温泉で猫と戯れられると聞いて勇み足でやってきたのは白草朱乃。せっかくなので観光していこうと、温泉まんじゅうを屋台で購入してもぐもぐ。あたりを見回すと猫、猫、猫。
「本当に沢山の猫がいるんですのね。癒されますわ」
　ゆったりと歩きながら向かう先は足湯。フェンシング同好会での日々の鍛練の疲れを癒すべく、そっと足を浸してのんびり。大きく息を吐き出せば、日々の疲れも逃げていくようだ。

（お？　あそこでまったりしてるのは朱乃ちゃんかなぁ？）
　そこへやってきたのは、呉井陽太。寝子温泉の近くに猫のたまり場があると聞いて、猫と遊びながら歩いていたら、足湯を見つけた。せっかくなので寄ってみようと近くへ行ってみたら、そこによく見知った顔があったものだから、更にラッキーだ。
「あれ……呉井先輩？」
　朱乃が顔を上げる。
「こんにちはー♪　朱乃ちゃんも足休め？」
　ひらりと右手を挙げると、朱乃が頷く。
「わぁ、こんな所で会うなんて奇遇ですの。お隣空いてますので良ければ一緒にお話しませんか？」
「隣いいのん？　ならお邪魔しまっす」
　よいしょ、と朱乃のすぐ隣に腰かけ、朱乃と同じように靴を脱いで裸足になって、パンツの裾を捲りあげ足湯に足を浸す。
「ん♪　気持ちいいねェ」
　そして、朱乃は先日のお礼を、と切り出した。
「アイルランド料理店では色々お気遣い頂いて感謝してますわ」
「オレの方こそ、一緒にご飯食べれて楽しかったよぅ」
　にこっと微笑むと、朱乃が嬉しそうに私も、と頷く。
　そんな朱乃が手に持っていたお饅頭に、陽太はちらと視線を送る。
「んん？　朱乃ちゃん、美味しそうなの持ってるねぃ」
「あ、お饅頭気になりますか？　この味も美味しいですの」
　器用に二つに割って、片方を差し出す。
「半分いかがでしょう」
「はんぶんこしてくれるのん？　ありがとー」
　屈託のない笑顔でそれを受け取り、ぱくりと口に含んだ。
　なんだかその様子が年上なのに可愛らしくて、朱乃はふふ、と笑ってしまう。
「この温泉饅頭うまうま♪」
　そうこうしているうちに、二人の近くに猫が寄ってきた。
　ひょこり、朱乃の膝の上に小さめの猫が乗ってくる。
　なんか食べてる～分けて～とでも言いたげに、朱乃の手をとんとんと肉球で叩いてくるのだ。
「ふふ、ごめんなさいね、お饅頭はもうないんですの……」
　優しく頭を撫でていると、あることに気付く。
「あら、この猫ちゃん……」
　なんと、背中にハートの模様があるではないですか。真っ白な体に、薄茶色のハート模様が燦然と輝いている！
「おー、旅館の主人が話してた通り色んな模様の猫がいるなぁ♪」
　他の猫たちの模様も見ながら、陽太はご機嫌で猫の背を撫でる。
「ん？　この子は確かー……背中にハート模様あるから、背中を撫でると恋愛運が上がる猫って聞いたような」
「へぇ、そんな噂があるんですか。お互い今後ご縁がありますようにって一緒に撫でちゃいましょうか」
　二人で優しく猫の背中を撫でると、猫は気持ちよさそうになにやらうにゃうにゃ言ったあとご満悦の表情できまぐれに森の中へと消えていった。
　他にも辺りには猫がたくさん。二人は猫たちを驚かさないよう、少し遠巻きに足湯に浸かったままズーム機能を使って写メを撮って行く。その配慮がわかってか、猫も少し近寄ってポージングしてくれていたような。

　そろそろ帰ろうか、と陽太は足湯から足をあげて、タオルで拭う。
「ここは静かでいいですね。一人でゆっくりするつもりでしたけど、呉井先輩にも会えましたし……ラッキーでした」
　ふわりと微笑む朱乃に、陽太も頷く。
「うん、今日は楽しかった～、ありがとー」
「そろそろ私もこれで失礼しますね」
　朱乃が立ち上がり、陽太と同じように足湯から上がろうとする、と。
「！！」
　足を滑らせそのまま転倒か、痛みを覚悟してギュッと目を瞑ると、そこには陽太の胸があった。倒れないよう、咄嗟に壁になってくれたのだ。
「はわ、わ……ごごごめんなさい！私ったら……」
　頬を羞恥に赤く染めて、朱乃は慌てて謝罪する。
「よいしょっ……と」
　朱乃を支えたまま、安全な場所に移動させる。足もタオルで拭いて、靴に履き変えさせて、これで大丈夫。
「有難う……ございます」
　まだ恥ずかしくて顔を上げる事が出来ず、朱乃は伏し目がちで陽太にお礼を言った。
　陽太は怪我がない事を確認して、ほっと息をつき微笑む。
「危ない危ない……怪我なくてよかったわー」
　そんな二人の横を、よかったよかった……と一匹の猫が通り過ぎていきましたとさ……。

「陽太ちゃんもきたのだ？」

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のんびり猫の小道

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