真夜中は異世界の扉｜リアクション

真夜中は異世界の扉

　たくさんの人間が挑戦した。
　その中で儚く散っていった者がいた。限界の果てに勝利を掴んだ者がいた。最後の一撃が勝敗を分けたこともある。
　様々な思いを胸に秘めて挑戦者たちは魔王の玉座に迫る。
「今回の挑戦者は貴様等か。ほう、レベル６か」
　魔王は玉座で踏ん反り返って言った。
　五人は微妙な笑顔で軽く頭を下げた。達磨が手で集まるように指示して顔を寄せ合う。
　零葉は横目で相手を窺いながら控え目に言った。
「……トラ柄のブタっているのでしょうか」
「ぶっちゃけ俺も思った」
　達磨の食い付きの良さに隣の梢が噴き出した。
　修は相手の全身を眺めて輪の中に戻った。
「あれでも虎猫なのだろう。語尾にニャンとか付かないが」
　自分の言葉が心配になったのか。修は一度、横目をやった。
「みなさん、戯れの時間は終わりみたいですよ」
　エレノアの言葉を証明するかのように魔王は玉座から飛び降りた。五人の前に四足で立ち、全身の毛を逆立てた。太い尻尾を床に打ち付けると小規模の地震が起こった。
「こんな愛らしいブタが、どこにおるんじゃあぁいっ！　魔王にゃおんをなめんなやっ！　死よりも恐ろしい苦痛を貴様等に」
「魔王がにゃおんだから、ここはにゃおうの城だな」
　修は真顔で話に水を差した。他の者は顔を下げて小刻みに肩を震わせる。
　言葉は不要となった。白ネコのダンゴの曲が軽やかに決戦を告げた。一同の表情が瞬時に引き締まる。
「この時を待ってたぜ！　ようやく手に入れたアサシンダガーの威力を受けてみろ！」
　茶色い疾風と化した達磨は魔王の首筋に斬り込んだ。二筋の斬撃が刻まれて、跡形もなく消えた。
「俺様の鋼鉄の身体を、その程度の攻撃で斬り裂けるものか！」
「肉の壁に阻まれた！」
「鋼鉄の身体じゃあぁ、ボケがああぁぁ！」
　魔王の身体が急激に膨れ上がり、上空に跳んで回転しながら落ちてきた。直撃したエレノアは床に叩き付けられ、大きく弾んで転がった。
「これが俺様のクリティカルじゃああああ！」
「ボルサリーノの盾は一撃では壊れません」
　仰向けに倒れたエレノアは目を開けた。十八のダメージを受けて、よろよろと立ち上がる。
「回復は私に任せてください」
　零葉の声にエレノアは力ない笑みで答える。自分を抱くようにして守りの姿勢を取った。
　大樹の杖を振りかざした零葉が全員に癒しを与える。十三の体力が回復した。
「ここで私の登場です！　魔王を丸焼きにしてあげますよー。物理ではありませんよー。魔力を込めた本物の魔法銃の玉を食らっちゃってください！」
　梢は短銃をぶっ放した。撃ち出された小さな玉は魔王の頭上で爆ぜ割れて火の雨を降らせた。
「ギ、ギニャァー！　も、燃えるぅぅ」
　魔王は生きた肉団子のように転げ回る。十九のダメージを受けた。
　目の当たりにした修は手にしていたパチンコを引っ込めた。魔法使い御用達の杖を取り出す。
　魔王は急に猫らしくなって伸びをした。太い尻尾を立てて左右に振り始める。
「と、とても熱かったのにゃ～ん。もう、酷いことされたくないのにゃ～ん」
「魔王には魔王の事情があり魔族も悪ではない」
　魔王は瞳を潤ませた。隠していた爪が伸びて床に食い込む。
「俺にも俺の事情がある。今、とても眠いんだ、ファイヤー・ブレス」
「媚を売って大損したにゃああああああ！」
　再度の火の雨に魔王は力尽きた。勝利を称えるトランペットの音を聞きながら、二十の経験値と百ニャオンを手中に収めた。
　魔王の討伐には成功した。それだけとも言える。
　各自が一端の強盗になった。懸命に宝箱を探したが見つからず、お疲れさま、と声を掛け合って解散した。

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