真夜中は異世界の扉｜リアクション

真夜中は異世界の扉

　金髪のツインテールをきらめかせて葛城璃人は愛くるしい笑顔で走った。ピンクのフリルワンピースが軽やかに踊る。右手には同色のステッキを持っていて先端には小さな翼が付いていた。
「これで終わりなのです」
　璃人はスライムの頭頂にステッキを突き刺した。翼は鋭利な刃物になって内部を無慈悲に抉る。
　断末魔の痙攣で敵は消滅した。一の経験値と五ニャオンを手に入れて、同時に爽やかな曲がレベルアップを告げた。
「ようやくレベル２なのですね」
　璃人は掌に硬貨を出した。重みを確かめるような動作から不意に握る。握り締めた拳が小刻みに震えた。
「レベルが上がってもお金が足りないのです。２０００ニャオンには遠すぎるのですっ！　りぃは魔法少女服が絶対に欲しいのですよーっ！」
「運が良いなら宝探しでもしてみるんだな。ま、俺は強さにしか興味はねぇが」
　瞬平は掌に右拳を打ち付けながら歩いてきた。璃人は急にはにかむような仕草をした。
「あのぉ、モブキャラではないですよね？」
「俺のことか？」
　瞬平が立ち止まると頭上に詳細が出た。璃人は納得したような顔で深々と頭を下げる。
「ヘンなことを聞いてごめんなさい。瞬平さんみたいに強そうなモブなんていませんよねぇ」
「用が済んだのなら俺は行くぜ」
　瞬平は璃人の前を通り過ぎた直後に立ち止まり、顔を横に傾けた。
「てめえがモブなら、俺も楽しめただろうな」
　サングラスから覗く赤い目に璃人は微笑んで見せた。
　軽く右の拳を上げて瞬平は街のアイコンを踏んで消えた。
「りぃの戦いを見ていたのですね」
　底意地の悪い笑みで璃人も後に続いた。

　適度な暗がりを目にする度に璃人は笑顔で足を踏み入れた。闇と光が交差する路地裏。獲物を見つけては鈍器と化したステッキを振るう。倒された人々は闇に溶け込んで硬貨となった。
「なーんだ、もっと早くこうしておけばよかったですね」
　璃人は拾い上げた硬貨に口づけをした。
「次のコインはどこですかねぇ」
　視線を素早く動かして定めた方向に走り出す。
　硬貨が集まるに連れて笑顔が抑えられなくなる。目標の額を目前にして璃人は笑った。その中、獲物を仕留めていった。
「ふふっ、あははっ……アハハハハハハ！」
　狂気を含んだ笑いが路地裏に響いて数人が驚いて振り返る。構わずに中央を走り抜けて光の中に戻っていった。
　二千ニャオンを手にした璃人は大通りに出た。正面の店の壁には大きな紙が貼られていた。同様の貼り紙は店を中心に多く見られた。
『葛城璃人は好ましくない方法で所持金を得た。従って店での売値は適正価格の十倍、買値は十分の一を希望する』
　文章の最後の印は寝子島奇譚運営部を示していた。
　満面の笑みで璃人は三段の階段を駆け上がる。小さなテラスの奥にあるカントリー風の扉を開けると、土鈴の涼しげな音が耳を楽しませた。
「魔法少女服を買いにきましたよー♪」
「……いらっしゃい」
　店主の冷ややかな声が迎え入れるのだった。