【ハロウィン】空飛ぶホウキと魔女暴走族｜リアクション

【ハロウィン】空飛ぶホウキと魔女暴走族

「Oh……私、空飛んでるデス……。Fantastic！」
　マリナ・Ｍ・マディソンは感嘆の声を漏らした。唐突に空を飛ぶようになった箒に跨ると、ふわりと体が宙に浮く。神魂の影響とはいえ、憧れの空を飛べる。マリナは驚くより先に大はしゃぎ状態になった。
「これは楽しいです！私のろっこんだと飛ぶまではいかないデスから……」
　雲一つない夜空に舞い上がり、マリナは気ままに飛び始めた。箒を持つ手の力の入れ具合で、飛び方を操作できるらしい。彼女はまもなく使い方を覚え、曲芸めいた飛行を始めた。空中で高速一回転し、垂直に舞い上がる。我流のパルクールで鍛えた運動神経が役立った。
　祖父と同じように、戦闘機乗りになるという夢。諦めていた空への憧れの気持ちが、こうして満たされるなんて―――

　この時、寝子島中の箒に異変が起きていた。
「ま……待ってください！」
　たまたま音楽スタジオの掃除をしていた羽黒空は、突然宙を舞い始めた箒をとっさに追いかけ、外に飛び出した。空を見上げると、瞬く星と、それにお構いなしに飛ぶ箒。
　そして、目にも止まらぬ速さで暴走する、魔女暴走族・特攻隊長ユキーノの姿だった。
「島岡先生？」
　見知った顔が見えた気がしたが、それよりも自分と同じ飛行の能力を持った者がいることに、空は興味を惹かれた。
「箒で飛んでいる―――面白そうですね―――」
自分も飛びたい―――目を閉じた空は、無意識に手にしていたスティックを鳴らしたらしい。空の背中に漆黒の翼が出現した。ろっこん〈飛翔八咫烏〉が発動したのだ。空は飛び立ち、浮いている箒を捕まえた。
元々飛行能力があるせいか、この怪異にも空はあまり驚かなかった。空中でまたがってみると、箒は人の体重もものともせず飛び始める。空は箒の操縦の仕方もすぐに飲み込んだ。自身の翼による飛行速度と、箒の加速を利用し、空は自由気ままに上空へと飛び立った。
「気持ちいいです……」

「空飛ぶ箒、か」
　御剣刀が試しにまたがってみると、箒は確かに浮かび上がった。「箒が飛ぶ」という噂を聞きつけたのだ。「魔女暴走族」たちが島に現れたことも。
「俺のフツウを守るために、箒は全部へし折る！」
　刀は強く決意した。勝負を挑む相手は、特攻隊長ユキーノだ。寝子島最速の座は譲れない。
　勝負の前に、刀は箒での飛行の感触を確かめる。加速と減速のやり方、曲がるときに建物の壁を蹴った時の感触、スピードを落とさないような壁の蹴り方、姿勢による空気抵抗とスピードの関係……
続いて、上に舞い上がって下に落ちるように飛んでみる。重力加速度を上乗せした場合、角度によってどれだけ速度が変わるかの確認だ。
一通り、気になることは確かめられた。自分の中で最も早く飛べる形をつくり、あとはユキーノを探すだけだ。刀は上空に飛び立ち、ユキーノの姿を探す。
「キミ、誰か探してる？」
　声のした方を振り向くと、髪をポニーテールでまとめた大柄な女性が箒で飛んでいた。
「刺繍付きの黒のローブを着た、魔女を探してる」
「あっ、キミも勝負する気っスね」
　その女性、霧桐舞衣はニカッと笑った。
「ユキーノと勝負する前に、コースの確認と箒に慣れるために飛んでるんスよ！『速さ』に関してなら誰にも負けないっス！」
　舞衣の「速さに関してなら誰にも負けない」というワードが刀を刺激した。
「よし、なら一緒にユキーノに挑むぞ！」

このページにイラストを設定する