【ハロウィン】空飛ぶホウキと魔女暴走族｜リアクション

【ハロウィン】空飛ぶホウキと魔女暴走族

　旧市街を散歩していた蜂矢時生は、空を横切った影に首をかしげた。
「……魔女？この頃、変な夢見るの、多いな……」
　目の前の不思議な光景に、時生は全く動じず「夢」と断定した。
「ということは、もしかして、おれも……？」
　夢とわかれば怖いものはない。時生は塀に立てかけてあった箒を拾うと、ちょっと考えて横座りしてみた。次の瞬間、重力に逆らって舞い上がる箒。
「……おっと」
　一瞬バランスを崩しかけるも、持ち前の運動神経のおかげですぐに持ち直す。念じれば移動ができるらしいが、スピードを出すのは少し怖い。
「おっ、と。あぶない……」
　時折コントロールを失い、ひやりとするがなんとか落ちずに済んだ。
「ふぅ……」
　箒に慣れてきた時生は、少し高度を上げる。夢から覚めるまで、夜景を楽しみながら夜の散歩を満喫したいのだ。

「空、飛べるんですの？」
　箒が空を飛ぶ、という話を聞いた天満七星は、旧市街にある家の庭に出た。手には、普段愛用している普通の竹箒。半信半疑で、七星は箒にそっと横座りする。
「ほ、本当に飛びました……」
　浮き上がったはいいが、操作の仕方がよくわからない。戸惑っていると、箒は唐突に斜め上に舞い上がった。
「きゃっ！」
　避けきれずに木の枝にぶつかる七星。それでも箒は減速せず、今度は家の屋根の上に飛んだ。七星はたまらず手を離し、屋根の上に投げ出された。
「いたた……」
　屋根の上で、七星は頭についた葉っぱをはらう。一方の箒は、七星の手を離れるとすぐに落ち着き、ふわふわと近くに浮かんでいた。どうやら、この箒は乗り手の精神状態に左右されやすいらしい。焦るとすぐ暴走するのだ。七星は箒に手を伸ばす。気を取り直して再挑戦だ。
　苦労のかいあって、箒の操作にもある程度慣れてきた。試しに移動スピードを速めてみる。念じるとともに、箒はゆっくりと加速していく。ところが。
「あれ、これはどうやって止めるんですの？」
　そう、一番肝心なところがわからない。加速しっぱなしの箒は、どんどんスピードを速めていく。
「これはもう、流れに身を任せるしか……」
　箒を制御できなくなった七星は、振り落とされないよう必死で箒にしがみついた。

「綺麗、だな……」
　ゆっくりと飛び回りながら、蜂矢時生は空中散歩を楽しんでいた。海の方から遠目に見る島の景色は、まるで宝石箱を開けたかのようだった。なかなか見られない景色に満足して、島の上空に戻ったところだった。
「よ、避けてくださ～い！」
　箒に乗った少女が、猛スピードでこちらに突進してくる。天満七星の箒が暴走しているのだ。
「わわ……」
　間一髪、時生が避けて衝突は免れた。
「ああ、やっと減速しました……すみません」
　謝る七星に、時生は微笑んでいう。
「いいよ。君も散歩？」
「散歩をしてみたかったのですが、操縦がわからなくて。どなたか慣れている方に教えていただきたいものですわ」
「箒の操作なら、慣れれば、すぐできるよ」
「私にできるでしょうか……」
　自信なさげな七星だったが、時生は元気づけるように言った。
「大丈夫……海からの景色も、綺麗だったよ。行ってみる？」