【ハロウィン】空飛ぶホウキと魔女暴走族｜リアクション

【ハロウィン】空飛ぶホウキと魔女暴走族

「甘い！」
　最終コーナーに差し掛かったところで、ユキーノはギアを入れた。背後の集団を振り切り、トップにいた刀もあっけなくかわして先頭に立つ。
「もらった！」
「順調なのですー。あとちょっとで勝ちなのですー」
「何？」
　ユキーノが横を見ると、ゼロが「いつのまにか」併走していた。まさか―――ユキーノはさらに加速し、今度こそ先頭に立つ。
　ゴール地点が視界に入ってきた。このままトップを維持すれば勝ち―――と思った瞬間のことである。
「ゼロの勝ちなのですー。これで箒はいただきなのですー」
　ゼロが「いつのまにか」悠然とユキーノの目の前を飛んでいた。
「馬鹿な―――」
　ユキーノが驚愕したその隙を見逃してもらえるほど、もれいびたちは甘くない。
　海はペンをもつ右手をさらに伸ばし、舞衣はエアの噴射出力を最大にした。空はさらに前傾姿勢をとり、刀は最終兵器〈加速〉を発動した。４人は団子状態になりながらもゴール目前でユキーノをかわし、ゼロにわずかに遅れてゴールを突き破った。

「……負けた。完敗だ！」
　ユキーノは潔く言うと、自ら高度を下げた。そして、箒から降りると、勝負した皆の前で箒を掲げ、両手でぽきりと折った。
「―――あれ？私、何をしていたんでしょう？」
　箒が失われると同時に、ユキーノはおっとり口調に変わる。きょろきょろ周囲を見渡しているユキーノに、空は静かに箒を差し出した。
「箒は、また新しく用意すればまた飛行できますよ」
「あなたは―――」
「一度や二度の失敗でくじけることはありません。音楽も同じです。失敗したらまた挑戦したらいいのです」

　寝子島を元に戻すため折らなければいけない箒は、ユキーノのものだったらしい。他の面々が乗っていた箒も、少しずつ浮遊する力を失っていった。一同は急いで地面に飛び降りる。地面にぽとりと落ちた箒は、もうただの掃除道具だった。ユキーノの姿もいつのまにか見えなくなっている。
　フツウの生活は、無事に守られたのだった。東の空が少しずつ、白み始めていた。

　九夜山の山頂に、徐々に朝の光が差し込んでくる。雀の鳴き声が心地よい。
「……修ちゃん？」
　傍らで何か言いたげな後木真央を、八神修はそっと手で制し、頭を撫でた。
「必要なら自分を騙せるんだよ、俺は」
　それは夢だったか、幻だったか。確かめる術はもうない。
　あるいは楽しい夢。あるいは散々な夢。あるいは甘い夢―――夢のような一夜は、こうして過ぎていった。

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あとがき

担当マスター：三城俊一
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皆様、ご参加いただきましてありがとうございました。

魔女のように箒で飛ぶ。絵本の世界のような体験はいかがでしたでしょうか。思い思いの空中散歩の様子は、書いていてとても楽しいものでした。
そして突っ込みどころ満載の「魔女」たちとの絡みも―――
「フツウでないハロウィン」も楽しんでいただければ幸いです。

では、またのご参加をお待ちしています。

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