【ハロウィン】空飛ぶホウキと魔女暴走族｜リアクション

【ハロウィン】空飛ぶホウキと魔女暴走族

　同じ頃、シーサイドタウン上空では夜空を切り裂くように飛び回る影があった。魔女ではなく、空飛ぶ箒での飛行をエンジョイしている篠原翠響だった。
「夢の中だもん、どんな無茶振りしたって平気だよね！」
　翠響はただの「ひと」だ。英国メイド風の魔女っ子衣装に身を包み、箒に乗っていても何も不思議は感じない。だって、彼女にとっては「夢の中」でしかないのだから。
　ゆえに、今は何をしても怖くないのだ。前傾姿勢をとり、安全などそっちのけで空中散歩を楽しむ。
　まずは、月に届けとばかりに思い切り上昇する。遠くに輝く星のようになった寝子島をめがけ、今度は箒で加速して急降下。
「やっほー！」
　すわ地面と衝突か、と思ったところで箒の柄を自分に近づけ、Uターンして急上昇する。気分はまるで、爆撃機スツーカを乗りこなすドイツ軍の戦車撃破王ルーデルだ。
　冗談みたいなルーデルの戦績については他に譲るとして。
「最高！ルーデルもこんな気分だったのかな？」
　14歳の女子中学生がルーデルに憧れている時点で、将来が恐ろしい気もするが、気にしてはいけない。

「あれ？」
「カフェ＆BAR　エルデスト」の店の前を掃除しようと外に出た檜山立樹は、夜空に見える光景に目を丸くした。
「夢なのかな、これ」
　箒で空を飛ぶ魔女たちなんて、まるで子供の頃読んだ絵本みたいだ。
「懐かしいな、昔はよくまねっこして、こうやって箒とかにまたがってたっ……け！？」
　まさか自分の箒まで飛ぶとは思っていなかった立樹は、不意をつかれて驚く。
「え、え、……えぇ！？なんで浮いてるの？ちょ、ちょっと待って！」
　半ば飛び降りるようにして、立樹は箒から一旦降りる。
「なんとか降りれたけど……普通に考えて男性にはこれきついって、いろんな意味で……」
「いろんな意味」の中身は読者諸氏に察していただこう。立樹は店に戻り、クッションを探して箒に縛り付けた。
「とりあえず椅子みたいにして乗り心地は良くなったけど……なかなか操縦しにくいな」
　宙に浮きながら慎重にバランスを取る。軽い気持ちで飛ぶ練習をしているうちに、立樹はつい時間を忘れて飛行に没頭していった。店が放って置かれている気がするが、夢の中なので問題ないだろう。