ホクホク！　落ち葉でおいしく焼きイモしませんか？｜リアクション

ホクホク！　落ち葉でおいしく焼きイモしませんか？

【糧食と燃料はたっぷり】

　
　１１月のとある日曜日、猫鳴館の台所。
　後木真央と綾辻綾花は本日午後二時の『焼き芋の集い』に向けて、食材の準備に勤しんでいた。
　イベント開催を知らせるチラシを見ていた綾花を、同じく参加を考えていた真央が誘ったのである。
「えっと、味噌ぬりおにぎり２０個、じゃがいも２０個……あとは、キノコとバターに銀杏と、シャケの切り身とバターですよね？」
「ありがとなのだ、綾花ちゃん。きのこはそこの袋にエリンギとえのきが入ってるのだ」
　真央が用意した持ち物リストをチェックしつつ、二人は手早く食材をアルミホイルに包んでゆく。早めに会場に向かい、受付の手伝いをしたいという綾花の希望に合わせて、昼食は軽めに済ませてある。
　銀色の塊をクーラーボックスに入れ、お茶入り２リットルジャグを用意すれば、食材の準備は完了だ。
「しょうゆと塩とマヨネーズ、紙皿に紙コップに割り箸、と」
　赤猫リュックに持ち物をしまってゆく真央。ずいぶん荷物が多いのですね、と言う綾花に、真央は胸をはる。
「綾花ちゃん、想像してみるのだ！　よく晴れた秋の日の落ち葉たき。白くなった灰からアルミホイルを取り出せば、とけたバターとキノコの香りがほんわり……そこにしょうゆをちょろっと……あー！」
「……おいしそうです」
　紅潮した頬に手をあてて、ほぅ、とため息をつく綾花。
　食材に飲み物、汚れてもいい服装に、落ち葉と火を扱う道具。
　多めの荷物も、二人で持てばどうということはない。
　準備万端ととのえて、二人は猫鳴館の玄関へ向かう。
「じゃ、行ってきますなのだー」
「夕ごはんまでには帰ります」
　寮の仲間に挨拶して、真央と綾花、いざ出陣である。

◆

　ところ変わって夏神神社。
　境内では、宮司姿の夏神零がせっせと落ち葉掃きをしていた。
　深まる秋、掃いても掃いても落ち葉は降ってくる。
「きりがないでござる」
　こんもりと積み上がった落ち葉の山に、ふぅと息をつく零。
　懐から半透明ゴミ袋をとりだし、落ち葉をつめようとしたその時。
　ひらり、と。
「何だ、これは……落ち葉で焼きイモしませんか？」
　風に吹かれ、落ち葉の小山に乗った白い紙。
　それはイベント開催を知らせるチラシだった。なんでも、町長主催の焼き芋の集いが寝子島小学校校庭で
開かれるのだとか。
「ふむ、今日が開催日か」
　紙をたたんで懐にしまうと、零は落ち葉の小山に目をやった。
　普段ならばゴミになってしまうところだが、落ち葉で焼き芋をするとなれば、役に立てるだろう。
　零はすばやく境内の落ち葉掃きを終え、ゴミ袋三個分の落ち葉を用意した。後は物置から荷車を出して、袋を乗せれば会場に落ち葉を届けられる――のだが。
「ん、お、重……」
　袋に落ち葉を詰め込み過ぎたらしい。零の両腕では、荷車に乗せるちょっとの移動でも難しい重さになって
しまっていた。
「うーむ、もう一つ袋を増やして落ち葉を分けるか、いっそ運ぶ量を減らすか」
　袋を下ろして悩む零。
　しかし、風はチラシだけでなく救いの手も運んできた。
「あの、こちらにお知らせの紙が、飛んできませんでしたか？」
　そう零に声をかけたのは、眼鏡をかけたオールバックの少年である。
「おれ、蜂矢時生です。よろしければ、お手伝い、しましょうか？」
　蜂矢と名乗った少年は、零が難儀しているのを見てとったのか、助力を申し出た。
「かたじけない、時生殿。拙者は夏神　零と申す。探し物はこれだろうか」
　零はぺこりとお辞儀をして、懐のチラシを渡す。
「あ、そうです、どうもありがとう」
「いやいや、拙者はたまたま拾っただけでござるよ」
　二人はしばらくおじぎをし合っていたが、我に返って落ち葉を荷車に積み、会場へと出発した。

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