小さな夢を抱いて｜リアクション

小さな夢を抱いて

　桜庭円の姿は周囲と比べて際立っていた。緑の髪の側面には黒い薔薇のコサージュが咲いている。ゴシック調のワンピースは中央が白く、左右は黒い仕様であった。一歩ごとに広がったスカートが軽やかに舞う。
「風が気持ちいいね」
　円は右肩に手を伸ばす。愛猫のにゃーくんが指に頬を擦り付けてきた。
　気ままな散歩を続けている最中、円は猫の方に顔を向けた。動きを止めた状態で一点を見ている。前脚でぽんぽんと肩を叩く。
「あの屋台が気になるのかな」
　円は軽いフットワークで屋台に立ち寄った。ワゴンの山を見て、すごいねー、と声を上げた。猫は興奮した様子で肩の上をちょこまかと動く。
「可愛い猫ですね。遊び相手に縫い包みを一つ、いかがですか。抱いて眠ると夢に現れますよ」
「へぇ、面白そうだね。じゃあ、一つ貰おうかな。あのぉ、この子に選ばせてもいい？」
「もちろんですよ。フィーリングが大事ですからね」
「ありがとう。にゃーくん、どこの子がいいかな」
　ワゴンの前で円は前屈みになった。猫は身を乗り出して頭を左右に動かす。
「少し動いてみるね」
　円が右に動く。猫はライオンの頭を前脚で叩いた。
「この大きなライオンがいいんだね？」
　前足の動きが激しくなる。円は笑ってライオンを抱き上げた。
「動物園でもお気に入りだったもんね。これをください」
「五百円になります」
「じゃあ、これで」
　代金を受け取った若者は大きな袋を取り出した。商品を収めると持ち易いように手提げホルダーを付ける。
「これで多少は運ぶのが楽になると思います」
「親切だね。お兄さんの名前を聞いてもいいかな。ボクは桜庭円だよ」
　円の笑みに若者は銀色の髪に手をやった。
「捻りのない名前ですが、油屋銀（あぶらや　ぎん）と言います」
「今日はありがとねー、銀さん」
　円の後姿に銀は軽く頭を下げた。