小さな夢を抱いて｜リアクション

小さな夢を抱いて

　海岸沿いの車道を柚瀬玲音が愛用のマウンテンバイクで気持ち良さそうに走っている。猫の耳が付いたキャスケットが愛らしい。銀色のポニーテールが猫の尻尾のように勢いよく振られた。水色のパーカーにハーフパンツの組み合わせで元気にペダルを漕いだ。
「あれはなにかな、かな？」
　減速して右手の屋台に目を向ける。大型のワゴンには細々とした縫い包みが盛られていた。
「ペンギンさんだよ！」
　玲音はペダルを踏み込んで加速した。最初の横断歩道を急いで渡って屋台まで戻ってきた。マウンテンバイクを路肩に止めるとワゴンに向かって走り出す。
「きりっとしたきいろのまゆがかっこいい、イワトビペンギンだよだよ！」
　両手で持ち上げて胸にギュッと抱き締める。一頻り喜んだあと、玲音は売り子の若者の存在に気が付いた。
「このペンギンください！」
「お代は五百円だよ」
「はい、これ」
　ポケットから取り出した五百円玉を差し出す。料金を受け取った若者は丁寧な口調で縫い包みの仕様を説明した。
「じゃあ、ゆめの中でいっしょにあそべるね！」
「そうだね。それはそうと、その大きな縫い包みを持って自転車に乗れる？」
「だいじょうぶだよ」
　くるりと玲音は背中を向けた。ナップサップを目にした若者は安心した様子で頷いた。
　間もなくして玲音はマウンテンバイクのサドルに跨り、ペダルを漕ぎ始めた。ナップサップの口からペンギンが顔を覗かせている。
「おにーちゃん、ありがとー！」
　元気な声に若者は、良い夢を、と眉尻を下げて言った。