小さな夢を抱いて｜リアクション

小さな夢を抱いて

　セミロングの髪型で頭の上にはゴーグルが乗っていた。オレンジを基調にしたパンツルックが活発な印象を受ける。
「今日もちかのドリルはサイコーやで」
　苑下ちかは上機嫌で屋台までやってきた。目にした瞬間、たこ焼きー、と叫んで駆け出した。
　ワゴンの縫い包みの山を見てぴしゃりと額を叩く。
「まー、違ってもええねん。ぬいぐるみの屋台は初めてや」
　ちかは手近なところから掘っていく。その先に大きな手が見えてきた。横幅が広く、黒い爪は長くて鋭い。引っ張り出すと大きなオケラであった。
「オケラやん。おっきいし、かっこかわええなー」
「抱いて眠ると夢に出る優れものだよ」
　細まった目の若者にちかは、知ってるで、と得意そうな顔をした。
「抱き枕いうやつやな。ちょっと試してええか？」
「どうぞ、どうぞ」
　ちかはオケラの背中を摩り、腹部に顔を押し付けた。
「めっちゃ、ふかふかやー♪」
　ふと我に返ったちかは若者に向かって自分なりの薀蓄を語る。
「兄ちゃん、知ってるか？　オケラってな、このスコップみたいな手で、がーっと土を掘りよんねんで」
「そうだね。水にも浮いて、かなりの速さで泳ぐこともできるよ」
「そうやねん。兄ちゃん、よく知ってるやん。ひょっとしてファーブルの子孫ちゃうか」
　ちかの笑みに若者も釣られた。
「ま、水もそうやけど、羽で空も飛びよんねんで」
「お嬢ちゃん、もしかしてファーブルの子孫かな？」
　その切り返しにちかは白い歯を見せて笑う。
「よっしゃ、これ買うで。兄ちゃん、なんぼや」
「五百円だよ」
「五百円かー。ちかにとったら大金やけど、この子にほれてもうたからしゃーないわ」
　全財産や、と五百円を渡した。
　ちかはオケラを胸に抱えて少し仰け反った。その姿に若者は僅かに目を開く。
「持って帰れる？」
「だいじょうぶや、おおきになー」
　オケラと格闘するようにちかは帰っていった。後ろ姿を見守る若者は独りごちた。
「本当にオケラが好きなんだね。全財産を失ってオケラにもなるし」
　自身の言葉に若者は少し笑ってしまった。