小さな夢を抱いて｜リアクション

小さな夢を抱いて

◎夕方の２９９号線◎
　寝子島が西日にほんのりと染まる。国道２９９号線沿いの歩道をアベル・タウンゼンドが大手を振って歩いていた。後ろに束ねた金色の髪が勢いよく跳ねる。
「今日も、ええ一日やったなぁ」
　黒い学生服に身を包んだアベルは海の方を向いて言った。海面の眩しさを避けて前に向き直る。
「なんや、あれは？」
　眉の辺りに手を翳し、前方を眺める。好奇心を刺激されたのか。大股で歩き始めた。
　屋台の前に立つと山盛りのワゴンを繁々と見つめた。
「縫い包みの山やわ」
　アベルは適当に手に取って品定めを始めた。売り子の若者は目尻をやや下げて、どれも五百円ですよ、と控え目に言葉を掛けた。
　妥当な値段と言わんばかりにアベルは頷く。
「五百円はお手頃価格やねぇ。でも、うちは縫い包みよりもフィギュアやニャンダムのプラモデルのほうが好きなんや」
「あー、そうなんですか」
　表情が読み取り難い狐の目で若者は言葉を返した。
「縫い包みに全く興味がないわけでもないんや。みんながどんなの買うていくんか、ちょっとは気になるやんなぁ？」
「わかれば購買意欲が増すかもしれませんね」
「どうやろなぁ、邪魔にならんようにするわ」
「あー、そうですか」
　狐目になった若者にアベルは大らかに笑って見せた。

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