小さな夢を抱いて｜リアクション

小さな夢を抱いて

　ステンドグラスの色彩が頭に降り注ぐ。顔を上げた謡は瞬く間に目を奪われた。
「兎さんが躍っている。可愛らしい姿だなー」
「早く愛を誓え」
　手前にいた熊が怒りを含んだ声で言った。謡は気だるげな様子で声の方に目を向ける。
　熊は純白の外套を着ていた。胸には金色の十字架の刺繍が燦然と輝く。厳かな雰囲気に自身の服装を見ると白いタキシードを着ていた。
「夢の中か。それにしても結婚式みたいだな」
「早く愛を誓え」
　熊の鼻筋に皺が寄り、鋭い牙が覗いた。少し怯んだ目が斜め下を向くとベールが見えた。謡の膝くらいの高さで、こちらを向いているようだった。
「もしかして俺のお嫁さん？」
　謡は片膝を突いてベールを捲り上げた。恥じらいながらも頷いた兎が目を閉じた。
「早く愛を――」
「俺の愛は本物だぞ」
　熊の言葉を遮って謡は兎の額に口付けをした。突然に万雷の拍手が沸き起こる。
「一生、離れない」
　兎の言葉を拍手が掻き消す。内容を聞き取れない状態で、いいよ、と謡は気軽に答えた。
　立ち上がった謡は一方の手首に目を落とす。いつの間にか、手錠のような輪が嵌っていた。兎の前脚にも同じ物があり、鎖で繋がれていた。
「新手の結婚指輪かなー」
　呑気な感想を口にして謡は鳴り止まない拍手と向き合った。新婦側の席にはたくさんの兎がいた。礼服やドレスで身を飾り、夢中になって手を叩いている。それ故に異様な光景に思えた。
「俺の方には誰もいないな。姉もいないのか」
　新郎の席は無人であった。
「まー、俺は幸せだからいいかー」
　口にした途端、世界が暗転した。

　謡は俯せの姿勢で布団に寝ていた。呻くような声で四つん這いになる。
「手首が痛いんだけど、寝相のせいかな」
　痣や傷は見られない。ただし手首には薄っすらと赤い線が入っていた。
「俯せに寝てたからねー」
　少し疲れた表情で言った。