小さな夢を抱いて｜リアクション

小さな夢を抱いて

　真央が目を開けると、長大な机が何列にも渡って地平線の彼方へと伸びていた。左右に目を向けても果てが見えない。全ての机に隙間なく、完成された料理が置かれていた。近くのカレーうどんは白い湯気を上げている。
「ここが真央ちゃんの目指した食のワンダーランドなのだっ！？　じゅるりが止まらないのだ！」
「そろそろ行くぜ」
　その声は足元から聞こえてきた。真央が視線を下に向けると、そこに手足が生えた味噌煮込みうどんがいた。
「どうして標準語なのだ？」
「安易に語尾に『みゃー』を付けると思ったのか。俺はそんな流行には乗らないぜ！」
　味噌煮込みうどんはすたすたと歩き出した。真央に向かって、早く来い、と手招きで急かす。
「よくわからないけど、わかったのだ」
　導かれるままに付いていく。その道程は長く、途上での補給は欠かせない。真央はひょいひょいとエビフライやカエルを模した饅頭を摘まんだ。
「どこまで行くのだ？」
「ほら、見えてきたぞ」
　前方に突起が見える。近づくに連れて横に広がってステージへと変化した。
「ここが夢の中心だ」
　味噌煮込みうどんはステージに飛び乗った。あとに真央が続く。そこは丸いステージで何もなかった。
「ここには食べ物がないのだ～」
　声に反応したかのようにステージの中央が飛び出した。見た目は真円のテーブルであった。
「テーブルにも食べ物がないのだ～」
　仕掛けを探すようにテーブルの上を熱心に手で摩る。背後に音もなくアームチェアが現れた。滑るように真央に突進して強引に座らせた。
「な、なんなのだ！？」
　瞬時に両手首と両足首が銀色の輪で拘束された。
　いつの間にか、テーブルの上には味噌煮込みうどんがいた。司会のようにマイクを持ち、ポストカードのような紙の内容を読み上げる。
「これから愛知県グルメ通、一人選手権大会を開催します！　では早速、問題です。愛知県の名物料理を全て答えてください。正解した料理は食べられます。制限時間は一分！」
　スタート、と真央はマイクを向けられた。
「急すぎるのだ～」
「五秒経過」
「まずはひつまぶし、どて煮、味噌カツもあるのだ♪　天むすは定番で、へぼ飯、たこ飯、自動車の最中、豊川の稲荷寿司」
　真央は切ない表情で唾を飲み下す。
「台湾ラーメン、五平餅、紅葉の衣揚げ、それにういろう。あとはきしめん、小倉サンド、えーと……」
「五十秒経過」
　その声を受けて、味噌煮込みうどん、と一品を追加して時間切れとなった。
「全問制覇は無理でしたが、十五品を獲得です」
　真央の拘束が解かれ、瞬く間にテーブルに料理が並んだ。
「真央ちゃんはもっとグルメになってやるのだ！　いただきますなのだっ！」
　怒ったような声で料理を貪る。その表情は蕩けるような笑みに包まれていた。
　役割を終えた味噌煮込みうどんはテーブルの端で見守る。
「ま、楽しめたみたいで良かったぜ」
　真央の豪快な食べ方を眺めて言った。