小さな夢を抱いて｜リアクション

小さな夢を抱いて

　重々しい黒雲が地上を押し潰さんばかりに広がる。一帯は静けさの中に埋もれ、ビル群は墓標のように佇む。
　縦横に交差した道路の中心に赤いセーラー服を着たアベルが立っていた。見下ろす先には同様のセーラー服を着た少女が片膝を突いて項垂れている。
「……なんでや」
　アベルは心の迷いを吐露した。瞬間、背後の気配を感じ取ったかのように振り返る。長い黒髪の少女が緑色のセーラー服姿で近づいてきた。
　冷めた目でアベルに迫る。
「何を迷う必要がある？　敵の命を刈り取るのが我らの使命」
「敵とちゃうわ！　うちらは仲間やろ」
「裏切り者は敵だ」
　冷え切った少女の目に青白い炎が揺らめく。その言葉にアベルは反応した。右手を腹部に押し付けて、あかん、と苦しげな声でよろめく。逃げるように向きを変えた。
「うちの、大切な……仲間なんや」
　アベルは項垂れた少女に前屈みで近づき、間近でへたり込む。右手に上体を被せて丸くなって震えた。次第に激しさを増し、絶叫と共に仰け反った。
　右手の甲から巨大な漆黒の大鎌が現出した。本人の意に反して右手が柄を握り締める。
「いやや……仲間なんや、友達なんや」
　涙声に大鎌は動きを止めた。アベルは笑顔を見せた瞬間、鋭い尖端が少女の白い首筋に振り下ろされた。

「……友達なんや！」
　叫んで上体が跳ね起きた。布団の中でアベルは荒い息を整える。
「夢やのにリアルすぎるわ～」
　側にいた少女の縫い包みを抱き上げて顔に押し付ける。
「もう、怖いこと言うたらあかんで」
　夢の出来事を思い出して少し涙声になっていた。