小さな夢を抱いて｜リアクション

小さな夢を抱いて

　地層が剥き出しになった崖がある。地面には背丈の低い雑草が生えていて一帯に広がっていた。
　ちかは一目で夢と看破した。その原因が側で茶色い身体を入念に動かしていた。
「おー、ほんまに夢に出てきよったで」
　オケラは幅広の前脚を上げた。ちかはハイタッチするように掌を合わせた。
「ちかやで。おけらさん、なかよーしてなー」
　オケラは頭を上下させた。ちかはすぐに周辺に目を向ける。
「のどかなところやなー。それに掘り易そうな崖もあるやん」
　目にした方向に歩いて崖の一部に手を置いた。
「おけらさん、穴ほり競争しようや」
　オケラは後脚で立ち上がると王者の風格を見せ付ける。ちかはどんと足を踏み出して右手の袖を捲り上げた。
「やるきまんまんやな。ちかかて穴ほり、むっちゃうまいねんでー」
　土に触れて念じることでろっこんの『螺旋』が発動、右手がドリルの形状に変化した。横幅は広く、身体の太さを上回る。
「これがちかやで」
　余裕の笑みに闘争本能を刺激されたのか。オケラは堂々とした足取りで崖と対峙した。
「待ったなしや」
　ちかは頭の上のゴーグルを下ろして装着した。
　一人と一匹は崖に向かって横並びに立つ。
「ほないくで、よーいどん！」
　一斉に崖に向かって突っ込んだ。ちかのドリルが易々と穴を穿つ。オケラは信じられない速さで掘り進めた。
　初速は同程度であった。徐々に左隣のオケラが地力を見せ始める。
「ちかもまけてられへんでー」
　上体を限界まで屈めて足に力を入れる。それでもオケラの速度の方が上回り、徐々に引き離されていった。
　焦るような目が頻繁に左に向けられた。オケラは先の方で動きを止めた。ちかの表情に明らかな怒りが噴き出る。
「なに急に止まっとんのや。ちかに手かげんなんかいらへん……わー」
　オケラを追い抜いた瞬間、何故か中空にいた。重力に引っ張られ、ちかは谷底に落ちていく。
「おけらさんはこれで止まったんやな。やるなー、ってこれ落ちたらあかんのとちゃうやろか？」
　刺々しい岩の連なりが底の方に見えてきた。
　一瞬、目の前が茶色くなった。羽音と共にちかの身体は上昇に転じる。
「わ、おおきに。やっぱおけらさんは、すてきにむてきやな」
　助けにきたオケラの首にちかは跨った。緑の大地が眼下に広がる。
　ちかは笑顔で歓声を上げた。
「このまま飛んで、ごっつい冒険をはじめるでー♪」
　オケラはちかを乗せて飛んでいった。