●久保田先生といっしょ（おままごと編２）●


【中庭】

　さてそんな、キャッキャウフフな合コンの様子を、ひたすら物陰から見つめる狂犬がここにいた。
「ああああ３歳の礼二様マジ天使でございます！！」
　お子様サイズの執事服に身を包んだ４歳児、浦賀 ダンテだ。
「高校生の礼二様は礼二様で大変お美しいのですが、
　この頃の礼二様の可愛らしさと言ったら！！」
　中庭にいる彼の主、加瀬 礼二の居場所を狂犬パワーで嗅ぎつけ、ここまですっとんできたのだったが、その忠勤の精神が一方向すぎて、ハタから見ると残念なレベル。
「半ズボンから覗く太腿と膝小僧が眩しい。
　いつも礼二様撮影用にカメラを持ってきていて良かったです！」
　と、はぁはぁしながら、おままごとに興じる加瀬を、あらゆるアングルから激写していく浦賀ダンテ……。


【中庭・合コン会場】

「…………！！？」
「どーしたの、れーじくん？」
　ふと悪寒を感じた加瀬 礼二は、また天使のような笑顔に戻って、久保田先生に笑いかけた。
「あは、なんでもないよ。ちょっとキミにみとれてただけ。
　それで、みわさんはどういうひととけっこんしたいの？」
「ええっ……（どきどき）　やっぱり、やさしいひとかなあ。
　みっちゃんを、ずっとずっとだいじにしてくれるひとがすき！」
「マンマはかねもかいしょーもないおとこはいくらやさしくてもだめっていってた」
「…………れーじくん、げんじつてきー」
　両親の影響なのか、イヤな大人の事情をだんだんおままごとに持ち込み始める加瀬。
「はいはーい！　ひびきがすきなのはねー、運命のひと！」
　そのみっちゃん先生の隣りで、天馬 ひびきが２本のアホ毛をゆんゆんさせる。
「いつか運命の赤い矢が大宇宙からズドーンとくる……そんな恋をしたいなっ☆」
　それを聞いた千鳥 雅人のアホ毛が、ぴこーんと矢のカタチに立った！
　後輩の様子を見た朝海 瑠歌、自分の背に隠れているその千鳥をドンと前に押し出し、
「さっきからなにをモジモジしてるんですぅ。
　こんな機会めったにありませんよ！　さあっ」
　ひびきの前に突きとばされた千鳥は、恥ずかしそうにあたふた。数少ない知識をフル動員して、
「えと、ご、ごしゅみは、なんでしょうか……？」
　どうもさっきからこの千鳥と瑠歌は、合コンとお見合いを勘違いしているらしい。
　けれど、元々合コンがよくわかっていない幼児が大半のメンバーなので、そこを突っ込んで千鳥に恥ずかしい思いをさせる者はいない。ひびきもニッコリ笑って、
「えっとねー、ひびきのごしゅみはねー……」
　その天馬ひびきをドーンと突きとばして、横から最上 るるかが、
「せきがえたーいむ！」
　席替え早いな。
「るるかのご趣味は　カテイテキな手料理！
　さあ　るるかの手料理召し上がれ」
　さっきからせっせと作っていた大量の泥団子を、男性陣にドサドサーッと差し出す。
「はい……ぼく、お皿にとりわけるね……」
「あ、じゃあこんどーたんがつくってくれまちた、このおさらに」
　雨崎 荒太郎と綾辻 綾花の２人が、かいがいしくその泥団子を取り分けて、幼児たちの世話を焼き、
「残したら承知しないんだから。
　食べるの手伝ったげる！（ぐいぐい）」
「モ、モガーーーーーーーーーーー！？」
　るるかに泥団子を口いっぱいに詰め込まれ、目を白黒させているチビ千鳥を見て、
「最初より千鳥も楽しめてるみたいだし、よかったなぁ」
　と吉野 夕弥もその横で、連れてきたかいがあったなぁとニコニコ。
「なぁんて　泥団子に惚れ薬をしこんどいたの
　中に桜の花びらが入ってるのがそれだよ」
　よかった、冗談だった。るるかが人差し指を前に立て、可愛らしく笑う。
「当たった人はるるかの事好きにならなきゃダメよ」
　いやいや目が笑ってない。山と積まれた泥団子を前に、ウッとひるむ男の子メンバー。
「ぱく……もぎゅもぎゅ」
　意を決して雨崎荒太郎が、その中の１つを手に取り、
「むぐ……これは……しょくちゅうどくだー！　ぐるぐるばったり」
　自分で効果音を付けて、ひとしきり苦しんだ演技で、その場に倒れ伏す。当たりってこと？
「あわわ……こーたろーくんが急にたおれてもうたー」
「さ、さつじんじけんじゃー」
「ばーぶー！？」
　ガタッと立ち上がる西野町 かなえ、金堂 睦月、野沢 コブラ、騒然となる合コン会場。
「うち、しっとる！
　こういうときは人工呼吸すればええんやよね？」
　とトコトコ走り寄ったかなえが、ちゅー・・
　かなえのちゅーで、チビ雨崎がぱちくりと目を覚ました！
「あれ……豆腐ちゃん、えっと……たすけてくれてありがとぉ……（にこっ）」
「うっ、浮気だわ！」
　それを見た、最上るるかの方はもうカンカンだ。持っていたテディベアを、雨崎に向かってずいと突き出し、
「責任とってるるかと結婚して！　この子の事ちゃんとニンチして！
　あくまでシラを切るならヨーイクヒだけでもぶんどるわ！」
　さあ、修羅場になってまいりました。言い争いにおろおろする畑中 華菜子がそこで、
「けんかは、めー」
　と止めに入り、かなえの方はとっさに機転を利かせて、
「おうちゃま（王様）ゲーム！　おうちゃまだーれだ？」
「ふふふ……、おうちゃまげーむなんてもうふるいね。じだいは──ぱぱげーむ！」
「「パパゲーム！？」」
　上穗木 千鶴が、なんか新しい概念を合コンに持ち込んできた！　
「パーパならワタシ、ゲームで決めなくてももういるのヨ！」
　とキョトンとする御薗井 Ｅ セレッソに、
「ちがうちがう、（そういう意味の）パパさ」
「「（そういう意味の）パパ！？」」
　日本画家の娘である千鶴は、幼少の頃から、父の友人知人に囲まれて育った。愛人やお妾さんを連れてやって来る彼らを見て、（そういう意味の）パパという言葉も、自然に覚えたのだ。
「（そういう意味の）パパはねー、ぼくにおかしをくれるのだよ。
　あと、おこづかいもくれるの。パパにおねがいすれば、何でも買ってくれるのだよー。
　さあ、ぼくの（そういう意味の）パパはいったい、だれかなあ」
　なんとなーく皆の視線が、金堂 睦月に集まった。
「よっちゃ、じゃあわっちが（そういう意味の）パパになっちゃるでー」
　哀れ金堂が、悪女に貢ぎ倒す運命に……。
「えっとねーワタシはじゃあ（そういう意味の）おねーさんになるのヨ！」
「わーい！　わたしはじゃあ、（そういう意味の）いもうとになる！」
　セレッソと華菜子が、金堂の両腕に抱きついた。
「ばーぶー！（そういう意味）」
　野沢コブラも赤ちゃん役になって、
「よしよしーなでなでーいいこでちゅねー」
　普段の身長にコンプレックスのあるセレッソは、自分より一回り小さくなった野沢を、ここぞとばかりに重点的になでなで。
「いや……俺は（そういう意味の）オカンじゃないから！」
　と吉野夕弥が首をぶんぶんしたので、（そういう意味の）お母さん役は、綾辻綾花に。
　さて、いつのまにか合コンから（本来の意味での？）おままごとになっている会場で、ひとり納得いってないのは最上るるかだ。
　そこに新しくやって来た唐獅子甚平姿の男の子、添木 千唐を見てぱっと顔を輝かせるが、
「やあ、可憐で素敵な御嬢さん。
　どうです、僕と一緒にお菓子でも食べに行きませんか？」
　と千唐は迷わず、ひびきとガールズトーク中だった久保田先生を口説きにかかり、
「えっ……」
　じわーっと泣き出してしまうるるか。イケメンひとりじめの野望も叶わず、べそをかきながら泥団子をぽいぽい投げて、
「いいもん！　るるかテディと結婚するの！　ほんとはパパがいいけど、
　パパがどっか行っちゃったから、パパがくれたこの子とするの」
　テディベアを片腕に抱きしめながら、ひっくひっくと泣く女の子。
「おや、どうしたんだいお嬢さん……♪
　可愛い女の子が涙を流していては僕も悲しくなってしまうよ」
　そんなるるかを見て、そこに通りがかった馬頭 カナトが、やさしくハンカチを差し出した。
「何か困ったことがあるのかい？　寂しいのかい？
　どうか僕に話を聞かせてくれないかな？　出来ることなら手助けするよ……♪」
「えぅ……」
　金髪の５歳児をうるうると上目遣いで見上げ、（イケメンじゃーっ）と心の中でサムズアップをする、チビるるか。
「そうだ……特別にちょっとしたマジックを見せてあげようかな……♪
　僕の瞳を見てごらん？　綺麗なグリーンだと思わないかい？
　自画自賛になってしまうけれど、僕はとても気に入っているんだよ……♪」
「うん、きれいー」
　とるるかが褒めた瞬間、馬頭のろっこん【自己偽装】が発動。あくまでもマジックと思わせるように、変身の瞬間はサッとハンカチで隠して、現れたのはパーティグッズのような馬の頭──
　ではなく、鼻の頭だけがもにょーんと馬のように伸びきった、カナトの顔だった！
「きゃあああああああああああああああ！！」
　ろっこん弱体化の影響だ。るるかがひと目見るなり絶叫し、
「うぇ……お化けえ！」
　泣き虫でビビリの雨崎荒太郎もいっしょに悲鳴をあげる。パニック！
「れれれ礼二様ぁぁぁ！！！」
　すわ、ご主人様のいち大事、とさっきから物陰ではぁはぁしていた浦賀 ダンテも、そこに跳び出し、逃げ回る加瀬礼二を追いかける。
「ああああちょっぴりベソ泣きの礼二様も、また格別に愛らしゅうございます！
　マジ天使！　マジ天使でございます！！」
「やー！　くるなー！！　へんたいー！！」
「嗚呼私の（←強調）可愛い礼二様！！
　どうかこのダンテめにぎゅー、ぎゅーさせて下さい！
　あと願わくばぺろぺろしたいしモミモミしたいしすりすりもしたいです！！」
「ふええええ！！！」


　こうして、馬頭とダンテの乱入騒ぎで、合コンおままごとは混乱のうちにお開きになったのだった。
　一方、そのドサクサにまぎれて、久保田先生の手をにぎり、連れ出した者もいる。さきほど会場で先生をナンパしていた、添木 千唐だ。
（ふふ、こうして２人きりになって、ゆっくり口説けば……）
　この千唐も綾辻綾花と同じく、暴走もれいびは久保田先生なのではないかと、にらんでいたのだった。
　彼の場合は、ろっこんの発動条件が「失恋で傷心」だと推理。その逆、つまり口説いて傷心を癒せば、この子供化ろっこんが解除できるのではないかと考えたのだったが──
（あれ、何だか甘えたくなって……）
「ふぇ……お姉ちゃん……抱っこして」
「ありゃりゃ？　ちからくん、ねちゃったね」
　幼児期の甘えたがりの性格が出てしまい、そのまま先生の膝枕でウトウトと眠り込んでしまった。
　そこに追いついた綾辻 綾花が、ようやく先生を見つけて、
「みーたんちぇんちぇ会議室で早く終わらないかな〜とか考えてまちたか？」
　と聞けたのだったが、先生はキョトンとするばかりで、会議室での記憶そのものが無い様子。
　ただ、先生は合コンおままごと自体はたっぷり満喫して楽しんでいたようだったので、子供に戻っていっしょに遊んであげればろっこんが解除される、という綾花の推理も、どうやら見当違いだったようだ。
　先生が楽しめるよう、あれこれ気を配っていた綾花もどっと疲れが出て、そこで千唐と先生といっしょに眠ってしまうのだった。


【中庭】

　そこから少し離れた芝生では、２人きりでおままごとをしている子供たちがいた。
「……りひとくん、おうちにかえると、さびしいの？」
　葛城 璃人と、高尾 日菜の２人だ。家に帰るとひとりだから、とポロリと口にした璃人に、
「……あのね！　わたしね、りひとくんのことが、だいすき！
　わたし、おおきくなったら、すてきなれでぃになるから……。
　だれにもまけないぐらい、きれいなおんなのこになるから……。
　そのときは、わたしを、りひとくんのおよめさんにしてくれませんか？
　だって、そしたらずっとずっと、りひとくんといっしょにいれるとおもう、から……」
　そう言って、あどけない瞳を伏せる日菜。
　璃人はそのちいさな手をにぎって、
「……ぼくも、ひなちゃんをまもれるように、つよくなる、です。
　そして、かっこよく、ひなちゃんにおにあいのおとこのこに、なる……ですっ！
　だから、おおきくなったら、ぼくのおよめさんになってください」
「えへへ、うれしい。ありがとう……。やくそく、だよ？」

　ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーますっ♪

「それから、もうひとつ。ぼくからの、だいすきのきもち……。
　ひなちゃんにもっともっと、つたわりますよーに、です。
　だから、ぷれぜんと。ずっとずっと、だいすき、です！」

　それは、時を巻き戻してそっと手渡された、２人だけのちいさな約束。