寝子島高校がその災厄に襲われたのは、ある春の日のことだった。
昼休みが終わり、5限開始のチャイムが鳴っても、教室に先生が現れない。
しびれを切らした
八神 修が北校舎に急ぐと、すでに会議室の前には、ちょっとした人集りができていた。
その中に同じ1年5組の
野々 ののこの姿を見つけて、
「遅いぞ、野々。先生を呼びに行ったんじゃなかったのか」
「あっ、修君だ。それがねー先生たち、お昼休み返上で、ずっと会議をやってるんだって」
聞けば、
1年生のクラス担任の先生全員が、午後の授業に出てきていないのだそうだ。
「しかし、いくらなんでも長引きすぎだろう」
「そうだよ! そんなに会議してたらおなかが空いて困っちゃうよ」
「いや、そういう問題か……? とにかく、このまま授業が始まらないのは困る」
と八神が会議室のドアをノックすると、ピチチチ……と中から聞こえてきたのは、何故か1羽の鳥のさえずりだった。続いてあどけない、幼稚園児ぐらいの子供たちの声がどっと湧き上がる。
「ん……? 何でこんな所に、子供がいるんだ?」
不審げに八神が眉をひそめると、ばーーん!
「うわっ!?」
いきなり内側からそのドアが押されて、
10人のちっちゃな幼児たちがワースカ廊下に跳び出してきた!
「うぇ〜んパパ、どこ行っちゃったんでちゅの〜」
「わ〜ん、もう、おなかへったよぉ」
「うそだよ。やよい、そんなの見えないもん!」
やかましい泣き声と笑い声を撒き散らしながらたちまち、てんでばらばらの方向に走り去っていく幼児たちの群れ。それをぽかーんと見送りながら、
「あれは……いったい、どこの子なんでちゅかねー。
どこかで見たことある気がするでち……って、んん?」
舌足らずな自分の声に、ふと違和感を覚える八神修……おや?と首をかしげて隣りを見れば、
「うわっ。どうしたんでち……じゃない、どうしたんだ野々、その姿は!?」
そこで、きょとーんとアホ毛を揺らしているのは、
水色の園児服を着た野々ののこ。
どう見ても幼稚園児にしか見えないそのチビっ子が、何故ののこだとスグ分かったのかと言えば、胸にそう書いてあるからである。ワッペンに『ひよこぐみ・ののこ』ってマジックで。
そして、はっと気が付けば八神もまた、ちびこい幼児の姿になっている!
「なっ……俺もか!? どうなってるんだ、これは」
「ワーイワーイ、ののこのおトモダチが、いっぱいなんだじょー」
「ぬわっ? いったいオレのカラダはどうしちまったんだヌ〜ン?」
「ままー、ままー。ぼくもう、おしっこもれちゃうのでつ」
八神だけではない。廊下にいた他の生徒も、みーんな幼児の姿になってギャースカ騒ぎだし、さらには同じ階の職員室から、そして教室から、子供になった先生や生徒たちが、次々と走り出ては押されてすっ転んでびえーんと泣き叫び、ドミノ式に校内にパニックを引き起こしていくではないか!
『ちっ。また、ろっこんの暴走かよ』
心に直接、ひびく声。
その声に誘われるように、チビ八神がトテトテと会議室を覗けば、一足先に、そこに猫の
テオがいた。
『クソッ……強力なろっこんだぜ。
この学校にいた連中が全員、あっという間に子供になってやがる』
八神を振り返ってそう吐き捨てるが、どうやらこのイライラ声は、校内の他のもれいびたちにも伝わっている様子。しかし今問題なのは、その当のご本人である。
「テオよ……おまえもでちか」
そう、なんと
テオまで仔猫化しちゃっているのだ。不本意そうに尻尾をぱたくりさせながら、
『見ての通りのザマだ。
このまま手をこまねいてりゃ、被害はこの島全域に及んじまうだろう。
だが、厄介なのはそれだけじゃねぇ』
「厄介だと? 子供になっただけでも、すでに頭がどうにかなりそうなのに、
この上さらにまだ、何があると言うのでち?」
ぷいとテオが横を向いて、
『まだ気が付かねーか? あそこのガキを見ろよ』
その視線の先をたどれば、1人の幼児がまだ、ぼんやりと会議室のテーブルに居残っていた。
「あっ。五十嵐ちぇんちぇーなのでち……いや、ですよね?」
チビっ子になっても、あのボサボサの髪は見間違えようもない。八神とののこの担任、
五十嵐 尚輝先生だ。あと、何故かその頭から2羽のヒナ鳥が顔を出し、ぴちくりと口を開けて騒ぎ合っている。まるで鳥の巣だ。
「わあ〜い、鳥さん鳥さんだ! あっ、ケンカはダメなんだじょ〜」
うきゃーとそこに駆け込んできたチビののこが、床に落っこちそうになったヒナの1羽を危ういところでキャッチ。よいちょと五十嵐先生の頭に戻してやってる、その様子を見ながら、
「ん? ヒナだと……?」
ふと目の前の光景に違和感を覚える八神。この先生のろっこんは確か、異常な現象を察知すると、鳴き声で鳥が危険を知らせるという能力だったはず。いま校内で起こっている、大規模なこの子供化現象に反応しているのだろうが、
「その鳥がヒナになっているということは……まさか、
子供になった
俺たちのろっこんまで、お子様レベルに弱体化している……?」
『そういうことだ。何度か試しちゃみたが、
世界を切り分ける俺のろっこんまで、クソの役にも立たなくなっちまってる。
そんなワケでまったく腹立たしいが今回は、この現象を引き起こしているもれいびを、
別の世界に隔離することが出来ねぇ。おかげで、
ののこまで騒ぎに巻き込まれちまった……って、のわっ?』
「わあ〜い、もっふもふのこねこがいるんだじょ〜」
そこでテオが、チビののこにひょいと首根っこを摘まれ捕まった。
『ギャー離しやがれ、ののこ! そんなふうに俺をかじるな! 鼻水を付けるな!
うっ、くそっ。そんなお気軽に、この俺様で遊ぶんじゃねえー!』
ののこに好き放題に遊ばれ、さっきまでのクールな態度はどこへやら。
『ぬぐぐ……だが幸い、ののこはまだ、異常な事態が起こっていることに気付いてねぇ。
見ての通りのガキんちょだからな。元に戻りさえすれば、子供だった記憶も忘れちまうだろ……。
俺様がののこの興味を惹いてる今のうちに、てめえらは早くこのろっこんの暴走を止めるんだ』
ののこの差し出す猫じゃらしに、身体の方はもう嬉々としてじゃれ付きながら、それでも、なけなしの最後の理性で、自分の推測を校内のもれいびたちに伝えるテオ。
『いいか……最初に子供にされた犠牲者が出たのは、この会議室の中。
犯人もきっと、この部屋にいた連中のうちの誰かに違いねぇ。
そう、さっきここを出て行った
10人のガキたち……
一刻も早くあの中から犯人を捕まえて、このフザけた現象を終わらせやがれ。
でないと、てめえらのオツムもそのうち……そのうち……
ミャア? みゃるみゃるみゃるみゃーーっ!!』
ホワイトシナリオの第2話を担当させていただきます、
マスターの鈴木二文字です。どうぞよろしくお願いいたします。
今回のシナリオの舞台は、寝子島高校です。
何者かのろっこんの暴走により、
寝子島高校の敷地内にいた皆さんは全員、3〜5歳児の姿になっております。
ろっこんの発動条件を推理/解除すると、この現象は止まり、元の年齢に戻れます。
また、今回はテオがろっこんを使えないため、
原因となっているもれいびを異世界に隔離することができません。
子供化現象は今のところ、寝子島高校の近辺に留まっていますが、
時間経過により、校外にも被害が拡大していきます。
そのような事態になる前に、皆さんの力を合わせ、
この現象を引き起こしているもれいびを探し出して、事件を解決しましょう。
▼幼児バージョンPCのアクションについて:
・シナリオ開始時点で皆さんの外見年齢は3〜5歳、平均身長は100cm前後になっています。
・外見の設定などのご希望などがあれば、アクションにお書き添え下さい(性別は変化しません)。何故か衣服ごと変身してますので、服装などもご希望があれば、併せてどうぞ。
・外見や衣服いずれも、極端にシナリオ内で有利になるような設定でない限りは採用いたします(ただし文字数の都合により、描写を省略する可能性はあります)。書かなくても全く問題はありません。
・言葉遣いや語尾の変化については、とくにご記入がなければマスターが適宜、ふだんの言葉遣いを幼児言葉に変換させていただきます。
・頭の程度は「いきなり3歳児レベル」〜「まだ高校生の理性と記憶を保っている」など、PCごとに希望していただいて構いませんが、いずれにしても時間経過やアクション結果により、難しいことが考えられなくなっていきますので、ご注意下さい。
・ろっこんも影響を受けて、弱体化しています。どのように変化しているのか、こちらも希望があれば申告していただいて構いませんが、マスター判断で大幅なアレンジが加わる場合もあります。
▼会議室にいた先生たち11人の状況:
島岡先生:三つ編みお下げの幼女。父親を探して、泣きながら星ヶ丘方面に向かおうとします。
桐島先生:小さくなってもメガネ。部室棟にいます。マセガキです。エロいものに興味津々です。
白沢先生:ふわふわ髪の女の子。先生の記憶がまだ少しあるのか、家庭科室で天ぷらの調理実習を始めようとします。
久保田先生:そばかすポニテの元気っ子。中庭で合コンおままごとをしています。
五十嵐先生:会議室でひたすらぼーっとしています。頭のヒナ鳥はお腹を空かせているようです。
津止先生:子供なのに老け顔。学校前の横断歩道に、チョークで楽譜を書き付けています。
樋口先生:日本人形みたいな、ぱっつん前髪の着物姿。講堂の隅にうずくまり、しくしく1人で泣いています。
泉先生:やんちゃなガキ大将。あちこちに出没して、いろんなイタズラを仕掛けます。
高野先生:男の子のような鼻絆創膏。自転車に乗れない子供たちを集めて、自転車置き場で乗り方を教えてます。
浅井先生:熱血少年。校庭で必殺シュートの練習をしています。小さくなっても女の子は苦手なようです。
雨宮校長:吊りズボンに蝶ネクタイのおぼっちゃま。捕虫網を持って、どこかに行ってしまいます。
事態は深刻ですが、とくに犯人探しはせずに、子供になったNPCやPC同士で遊ぶのも自由です。
ののこは今のところ、仔猫化したテオに夢中ですが、他に面白いことがあればそちらに遊びに行ってしまいます。事件が解決して元の姿に戻れば、他のNPC先生たちと同様、幼児だった時の記憶は忘れてしまうでしょう。
また、テオは完全に仔猫化してしまいましたので、アクセスしても有益な情報を引き出すことはできません。
それではまた、リアクションでお会いできたらいいですね! 鈴木二文字でした。