紅葉狩りに行こう！　※紅葉は食べられません｜リアクション

紅葉狩りに行こう！　※紅葉は食べられません

【こんな事もあろうかと】

　八神修は本日の紅葉狩りに多大な予習と切実な想いをもって臨んだが、そんな彼の頭脳をもってしても、
どうにもならない事態はやってきたりする。
「修君、用事ってなに？」
　寝子島高校に到着したバスから降りた七夜あおいの横にいる、野々ののことか。

「いや、その……大したことじゃないんだが」
　あおいに『今日は楽しかった』と礼を言って、こっそり土産物店で買っておいた品を渡すだけのことだ。
　しかし、ののこの目があるのはひどく恥ずかしい。そして、あおいにだけプレゼントを渡すのはどうか？
ということにもなってしまう。かと言って、席を外してもらうのもわざとらしいのではないか――ぐるぐると
八神の思考はうずを巻く。
　場の空気を察して気を利かせてくれないものか、と願いを込めた視線を送ってはみたが。
「こんぺいとう、修君も食べる？」
「いただくよ」
　予想していた答えをこんぺいとうと共に噛み砕く。
　こうなってしまうともう、最後の手段をとるほかない。

「あおい、野々、今日は一日楽しかった。どうもありがとう。お礼の品を渡したいんだ」
　八神はリュックから、天然のもみじを樹脂で固めた携帯ストラップを２つとり出した。なるべく２つとも同じ
色合いの葉を選んで買ってきたものだ。
「うわぁ、これ本物の葉っぱが使ってある！　かわいいね、修君」
「修君、わざわざののこちゃんとお揃いのを選んでくれたんだ！　ありがとう」
「どういたしまして」
　ぱっと笑顔になるあおいに、八神は安堵の息をついた。

　もしあおいと二人きりになれなかった時、隣にいるのはののこだろう。二人に同じものをプレゼントすれば、きっと『お揃いだ』と喜んでくれるはずだ。
　それが、土産物店でシミュレーションを重ねた八神の頭脳が出した結論。

（あおいが笑顔になってくれれば、それでいい）
　八神　修『同級生と紅葉狩りを楽しむ』ミッションコンプリート、である。

【エピローグ】

「御剣刀！　集合時間は午後５時だと言い渡したはずだが、聞こえなかったか？」
「聞こえていました。遅れてすみません」
　御剣は引率の教師に頭を下げた。

　一方的に叱られるのは嫌なものだが、時間に遅れたのはこちらが悪い。のんびり紅葉とどら焼きを楽しんで
いたら、集合時間に遅れてしまいました、なんてちょっと言えない。
　その上、屋台の店主たちに『御剣　刀って生徒さんはアンタかい？　先生がとても心配して探していたよ』
などと聞かされては、口答えなどできようもなく。
「お前が遅れたために、帰りのバスもなかなか出発できなかったんだぞ。運転手さんと他の生徒たちにも迷惑
だろう」
「……すみません」
　ぐうの音も出ない、とはこのことだ。

「まぁ、反省しているならいい。私は学校に見つかったと報告するから、御剣は親御さんに連絡しなさい」
「えっ？　一人暮らしですよ、俺」
「なら、ご実家に連絡すればいいだろう」
　学校に電話をかける教師を横目に、御剣はぐぐ、と歯噛みした。無論、携帯に連絡先は登録してある。
　――が、あまり掛けたくはない。剣術に打ち込みすぎて成績が下がり、両親と折り合いが悪くなってからは、特に。
　幸い、教師は背中を向けているし、人が電話するのをじっと見たりはするまい。
「……もしもし、刀だけど。元気です。あぁ、うん。ちゃんと寝てるし、ご飯も食べてるよ。じゃあ」
「御剣……それだけでいいのか？　離れて暮らす息子を心配しない親なんていないぞ」
　フリだけで、実際には電話しなかったことには気づかれずにすんだ。
「先生、あの車、こっちに来ますけど」
　話を、ちょうどやってきたオレンジの乗用車にそらすと、教師はにこりと笑った。
「あれはさっき頼んだウチの車だ。御剣の家まで送るから、乗りなさい」
　実家の番号を表示する携帯を、かばんにつっこんで。
「お世話になります」
　御剣は、教師に頭を下げた。

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あとがき

担当マスター：陣杏里
ファンレターはマスターページから！

こんにちは、陣　杏里です。

第二弾シナリオ、紅葉狩りは楽しんでいただけましたでしょうか。
秋だ！　九夜山に紅葉狩りをしに行こう！　という、あっさりした思いつきで始まりました。
グルメな方、修行な方、芸術に走られる方、釣りの方、多彩なアクションをありがとうございました。
寝子島高校生徒の皆さんは、親睦を深められたのではないでしょうか。

私は……『紅葉狩りをしよう！』という明確なお出かけをしたことはないです。
結果的に紅葉狩りになっていたり、いなごの佃煮を食べたりしたことはありますが。

ご参加の皆さま、お読みくださった皆さま、ありがとうございました。

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