紅葉狩りに行こう！　※紅葉は食べられません｜リアクション

紅葉狩りに行こう！　※紅葉は食べられません

【事前に選んでおきました】

　早坂恩と安本マコト、六月一日宮檸檬の三人は、山道の途中で一緒になった倉前七瀬とともに、九夜山
ふもとの土産物店を訪れていた。

「山登って下りてくれば、もう乾いてるわよね」
「早坂センパイ、なんで二つもしおり作ったんすか？　誰かにプレゼント？」
「うふふ、それはひ・み・つ！」
　早坂はペロリと舌を出し、檸檬の質問には答えない。

　早坂たち三人は『もみじ押し葉のしおり作り』という貼り紙に惹かれ、ロープウェイに乗る前に土産物店を
覗いたところ、店主から
「お客様がお選びになったもみじを乾燥させて、押しておきますので。その間に散策などいかがですか？」
　という提案を受け、『残りの作業は山を下りてから』という旨を伝えてから、件の男子トークとあいなった
のである。

「よし、お前らに芸術科の底力ってやつを見せてやろう！」
「うわぁ、ちょっと緑のやつと、真っ赤なやつ……マコトの選んだ葉っぱは鮮やかですね」
　倉前の感嘆の声に、フフンと安本が鼻をならす。
　早坂と六月一日宮も、自分の葉を店主から受け取って、作業を始めた。

「いやー、フェチ話の現場を倉前センパイに見られた時はどうなるかと思ったけど、話の分かってくれる人で
良かったっす」
「そうね。好きになったら年齢や性別は関係ない、なんて七瀬ちゃん大物よね」
「そうですかねぇ……なら、恩はどうなんです？　どんな女の子が好きなのですか？」
　早坂は真っ赤なカエデとイチョウの黄色を、接着剤つきのしおり台紙にのせて、しっかりと貼りつける。

「まぁ、女の子ってだけで可愛くて良いわよねぇ。手とか爪とかも好きだけど、最近は見せるインナーってあるでしょ？　あれ、レースが可愛くてステキだと思うのよ」
「へぇ、早坂はちょっとマニアックだな」
　千代紙をちぎり、葉のすきまに彩りとして配置しながら、安本は言葉をかける。
「ほめ言葉として受けとっておくわ」
　六月一日宮が作る黄色い葉のしおりも準備が終わり、後は専用フィルムに挟んでラミネーターに投入するだけ。

「あの、すみません」
「あら、何かしら？」
　早坂が振り向くと、土産物店の入口から眼鏡の少年がこちらをのぞいている。
「おれ、蜂矢時生。みんながしおりを作っているところ、撮影させてもらってもいいかな？」
「おぉ？　わかってるなぁ、君。俺の芸術的なしおりを撮影したいのか？」
　撮影の申し込みに、すかさず安本が食いつく。

「いやその、和気あいあいとした自然な表情を撮影したいんだけど」
「だそうよ、マコトちゃん」
「せっかくですし、ラミネーターに入れて、出来上がりを待っているところを撮ってもらえばいいんじゃない
ですか？」
　たじろぐ蜂矢から安本をそっと引き離し、彼がカメラを構えたことを確認してから、ラミネーターにしおりを投入。出てきたものを冷まして、余分なフィルムを切りとる。しおりの上部に穴あけパンチでひもを結ぶ穴を開け、好みの色を結んで完成だ。

　緑と赤の葉に、緑のひも。
　赤と黄の葉に、青いひも。
　黄色い葉二枚に、真っ赤なひも。

　三者それぞれのしおりを作り上げ、しおりの写真を一枚。しおりを中央に、集合写真を数枚。
「いい表情が撮れた。ありがとう」
　写真はいるかと聞く蜂矢に、カメラの液晶画面を見せてもらって、あれがいいこれがいいと一騒ぎ。それぞれのスマホに写真を転送してもらった。
「うわ、やべ！　集合時間まであと１５分っすよ。早く行かなきゃ」
　スマホの時計を見た六月一日宮の声で、５人の少年たちは店主への挨拶もそこそこに、駐車場へと走り出した。

このページにイラストを設定する