一方、草木が生い茂った空き地に墜落した月と浅山はというと？
「ぐぬぁぁぁーっ！」
　月が自らの腕をクナイ＝ブレードで傷をつけていた！
　痛みで理性を保とうと試みているのだ。
　そうしなければ、目の前の無防備な下着姿の浅山を（いろんな意味で）襲いかねない！
「し、鎮まれ……私の……カラテパワー……！」
　刃が彼女の腕の皮膚を裂き、赤い血潮を滴らせた。
　それでもなお、魔法少女の殺害欲求は収まりそうにない。
『やめてくだい……。もうやめてください……！』
　浅山は月の行為をやめさせるべく、下着姿のまま彼女にしがみついた。
【この世界でも、月さんは魔法少女である私を襲うのですね……！】
　浅山は悲しくなった。
　変身できない魔法少女である自分を殺すまいと必死に堪える月の姿に心苦しくなった。
『月さん、自分を見失わないでください！』
　浅山の切なる願い（筆談）に、月は苦悶の表情を浮かべつつ告げた。
「ひとつだけ……方法があります……」
　月は頬を朱に染めながら浅山へ這い寄る。
「小淋さん……私と合体しましょう」
　なお、この合体には（意味深）が付く。
『私と月さんの力の合体（フュージョン）ですか？』
　浅山はそんなことを知る由もなく、素直に言葉の意味を筆談で伝えた。
　月は更に浅山へ密着せんと、彼女の体をたぐり寄せる。
「カラテパワーと……魔力をシンクロさせるのです……」
『魔法少女と忍者の力の融合……！　上手くいけば魔法少女と忍者以上の存在になり得そうです』
　浅山は感心のあまり興奮している。
　だが、月の魔法少女への殺意の波動がより一層強くなっている。
　時間がない……！
　浅山に迷う時間などなかった。
『どこまで出来るかわかりませんが、やってみましょう』
『それでその方法はどうやって？』
　そう尋ねた途端、浅山は月に上体を押し倒されてしまった！
　互いの指を絡ませ合い、熱っぽい視線を交錯させる。
　肌にかかる吐息は徐々に熱を帯びていき、密着した胸元から伝わる鼓動の速度が加速していく。
「申し訳ございません、処分は後ほど、如何様にでも……」
【どういうことなのですか……！？】
　手を握られたため、筆談を封じられた浅山は戸惑うばかり。
　それでも月は空いた腕を浅山の背に回して抱き寄せる。
「合体には……両者の強い愛の力が必要なのです……。ですから……その……」
　月はもじもじしながら上目遣いで浅山に告げた。
「……私の愛……受け取って……いただけませんか？」
　その物腰は実際扇情的で、浅山は同性でも思わず背筋がぞくぞくした。
【つまり、私も月さんを愛さないといけないのですね……！】
　浅山は戸惑う。考えた。言葉の意味を読み解いた。
　そして結論づけた。
【友愛ですね……！】
　友情パワー！
　……月は友情（意味深）なのかもしれないが、こまけぇことはいいんだよ！
　浅山は頷くことで了承の意を伝えた。
　すると、月は安堵した表情を浮かべた。
「ありがとうございます……こんなことしたら……嫌われてしまうのではと……」
　浅山は首を横に振った。笑顔だ。
　月の指を絡める力が一層増した。
　意味深！
「すぐ……終わりますから……」
　そういうと、浅山の背中に回していた腕を後頭部にまわした。
　そして火照るお互いの顔を近付けていく。
　……２人の唇が合わさるのは、避けられぬ宿命であった。
【えっ、月さん！？】
　同性にキスをされて驚く浅山。
　だが、浅山は更に驚いた。
【どうしてでしょう……？　体が……熱くなって……今まで感じたことのないパワーが、全身を駆け巡ります……！】
　朝山の体へカラテパワーの注入が開始された！
　キス自体はほんの数秒の出来事だ。
　しかし、カラテパワー注入に伴う体内時計の麻痺が、１秒を悠久の時へと変えていた。
【あぁ……今、はっきりとわかります……！　月さんが、私の中に入って、きて……ます……んっ！？】
　両者のパワーがシンクロ完了したとき、物理的融合が開始されたのだ。
　決して卑猥な表現ではない。
　いいね？
【す、すごいです……！　入ってくる月さん（のパワー）が、熱いです……！　んんっ、ダメです、月さん！　むりやりねじ込んだら痛いです……！　もっと……優しくしてください……！】
　融合時はとても慎重に行わないと、互いの体に強い負荷がかかるのだ！
　融合を受け入れる側の神経細胞を傷付けかねない。
　ゆえに決して卑猥な表現ではない。
　いいね？
　そして融合は最終段階に入る。
　互いのパワーの出力を全開まで引き上げ、体内でリブート（再起動）させるのだ！
（小淋さん……私……もう、出ます……！　イキますよ……！）
　パワー出力は同時に行わなければ失敗してしまう。
　２人のタイミングが揃うまで我慢が必要だ。
　つまり決して卑猥な表現ではない。
　いいね？
【はい……私の中に……出してください……遠慮しないで、全部、出してください……！】
　浅山も準備が整い、カラテパワーの受け入れを今や遅しと待ち構えている。
　だから、決して卑猥な表現ではない。
　いいね？
　月は浅山の言葉通り、自身のカラテパワーをすべてぶちまけた！
（では、イキます……！　んふあぁッ！　出てます……絞り尽くされそうです……！）
【私も……たくさん出て……ああぁん！？　こんなの、はじめてです……！】
　２人とも耐える、融合時の最大の難関、最終的なシンクロニティの実現に向け、苦痛に耐える！
　既に月の体は、浅山の肉体へと溶け込んでいる。
　本来、魔力とカラテパワーは相反する存在。
　それを１つに束ねようとするのだ、想像を絶するほどの苦悶を強いられる！
　何度でも言おう、決して卑猥な表現ではない。
　いいね？
　受け入れた浅山の体が痙攣する。
　白目を剥いたまま顔を赤く染め、２人分のエネルギーで宙に浮いていた。
　限界が近い！
　次の瞬間、浅山の体が黄金色に発光したかと思えば、喋れないはずの彼女が確かに“声を出して”叫んだ！

『ホワイトリリー☆エクスプロージョンッ！』

　マジカルネコジマ空間に、１本の光の柱が打ち上がる。
　その発生源には、浅山でもなく、月でもない、１人のヘソ出し和ゴス少女が立っていた。
「魔法少女を超え、ニンジャを超え、二人の思いが両者を束ねん……。超法女忍【ユ＝リン】、ここに参上！」
　説明しよう！
　超法女忍【ユ＝リン】は、２人の少女の愛の力がカラテパワーと魔力の相反する力を融合させた結果、奇跡的に生み出された存在なのだ★
　その容姿は浅山と月の要素を掛け合わせたものだった。
　ある意味、２人の愛の結晶といえよう。
　ハーフアップした髪の一部を三つ編みに。そして大きなリボンが結われている。
　黒白の和ゴスは２ピースタイプで、足袋風のオーバーニーソックスとミニスカート。
　もちろんガーターベルトは標準装備だ。
　右目は青、左目は黒のオッドアイ。
　武器も右手に魔法少女（浅山）のリンクルリボン、左手にクナイ＝ブレードを持った鋼糸ギミック付きグローブを装着。
　人格は浅山だが、声は月のもの。
　身体能力も月のもので、身体を動かすのも月の担当である。
　……すこし月の愛の方が重かったせいか、担当部分に偏りが出てしまったようだ。
「融合は成功ですね。世界の呪縛――魔法少女への殺意も薄らいでいます。これなら……！」
　ユ＝リンは町役場の方向を眺める。
「目指すは、原因たるパンプキンクイーンの撃破……！　セイヤァー！」
　ユ＝リンはカラテシャウトでパワーを爆発させると、己のエネルギーの放出だけで宙を舞う！
「セイヤァー！」
　気合一閃！　ユ＝リンは空を漂う無数のカボチャモンスターをなぎ払いながら、最短距離で町役場へ向かっていく！
　
＜超法女忍【ユ＝リン】：爆誕＆進撃開始＞