【ガールズ　ラヴィング　ホワイトリリー】

　浅山 小淋が気が付くと、マジカルネコジマ空間の中だった。
　カボチャにされた一般市民の背中をなでると、その表情は悲嘆に満ちた。
【テオさんの力でなんとかなってますが……、あのカボチャのモンスターがいる限り、住人達を放っておけませんね】
　色々と頭を抱えたい状況ではあるが、彼女もまた魔法少女としての自覚が芽生えていた。
【みんなを救うために、変身しましょう！】
　浅山は意を決してカボチャモンスターの群れの中に飛び込んだ。
　そしていつの間にか握っていた魔法石を天へかざして変身！
　……できなかった。
【どうしてですかーっ！？】
　容赦なく降り注ぐカボチャモンスターの光線を浴びた浅山は、勢いよく後ろへ吹っ飛んでいった。
　魔法少女ゆえにカボチャにならずに済んだのだが……。
【やっぱり、こういう展開ですか……】
　身に付けていた衣服が爆ぜ、あっという間に下着姿に！
　以前と同じように魔法少女には変身できるのは確かだ。
　しかし、どうやらすぐに変身できないのは前と同じであった！
【ということは、羞恥心は捨てろ……という事なんですね……！　うぅ……】
　心の中では分かっていても、それを捨てるなんてとんでもない！
　下着姿の浅山は、これ以上体を覆っている布が吹き飛んで、マングローブの森（比喩表現）が野ざらしになってしまわないように全力でカボチャモンスターから逃げ出した。
　だが変身前の魔法少女は、一般人とそういない身体能力。
　すぐに囲まれてしまった！
「カボー！」「カボボー！」「カーボゥ！」
　蚊柱めいた包囲網に、浅山は怯えて腰砕けになってしまう。
　カボチャモンスターの大群の光線を浴びてしまえば、彼女の肌色とマングローブ（メタファー）はマジカルネコジマ空間の空のもとに晒されてしまう！
　倫理的危機！
【ああ……月さん……、私はもうダメのようです……】
　ふと、親しい友人の名前を心の中で呟く浅山。
【私は魔法少女になれませんでした……】

　前回の活躍を振り返りながら、今の下着姿の自分に対してステバチ・エモーションな絶望感に浸る。
　いよいよカボチャたちの口から光線が一斉放出されそうになった、その時……！

「セ　イ　ヤ　ァ　ー　ッ！」

　突如浅山の目の前に現れた黒い影が、独特のカラテシャウトとともに２本の巨大クナイ＝ブレードでカボチャモンスター数体をみじん切り！
　切られたカボチャたちはサイコロ状になって地面へぶちまけられた。
　クッキング・テツジン！
「……小淋さん、もう安心してください。なぜなら……」
　黒い影は振り返ると、浅山にそう告げる。

「わ　た　し　が　き　た　！」
　抜け忍こと、『魔法忍者少女の朔の月（ついたちのゆえ）』見参！
　浅山は病の後遺症で声が出ない。
　衣服は吹き飛んだが、会話用のスケッチブックとサインペンだけは光線を浴びても無事だったため、つつがなく筆談が可能だ。
『月さん！　また助けてくれるのですね……！』
　こくり、と無言で月は頷く。
　そしてカボチャモンスターに向き直ると、１対の巨大クナイ＝ブレードを交差させた状態でドッキング！
　これは月の必殺技の１つ『ヤバイビッグ＝ジュージスリケン』だ！
「セイヤァーッ！！」
　カラテパワーをこめて投擲すると、まるで意志を持ったかのごとくカボチャモンスターの群れを蹴散らしていくではないか！
「「カボァー！！？？」」
　冷酷無比！　情け容赦なし！
　その刃に触れたカボチャは、たちまちすり潰されてスムージーになってぶちまけられていった。
　まさに地獄の光景！　南無阿弥陀仏！
　だが安心したまえ、一見凄惨な殺戮行為に見えるが、やっていることはスムージーを作っている。
　寝子島は全年齢対象だ。
　ケンゼン！
「……逃がしません」
　群れから外れて逃げようとするカボチャは、鋼糸ギミックが仕込まれたグローブで対応。
　手の甲から鋼糸を発射すると、アヤトリめいた指さばきでかぼちゃたちを包囲！
「……これで終わりです」
　月が両手をすぼめると、鋼糸の網目が一気に収縮を始めてカボチャモンスターたちに食い込んだ！
「「カアアボオオオー！？」」
　南無三！　カボチャのサイの目切りだ！
　こうして、群がるカボチャたちをあっという間に１つ残らずスムージーへと変えてしまった月である。
「……ぐっ！？」
　しかし、月は自分の右目を抑えるとその場に膝をついた。
　浅山は慌てて月に駆け寄るが、月は彼女を突き飛ばしたではないか。
「……来ては、いけません……！」
　月はうめきながらその場で荒い息を上げる。
【一体、どうしたのでしょう？】
　オロオロと月を見守る下着姿の浅山。
　そこへ、新手の殺戮者たちが乱入する！

「イヤーッ！！」
　死角から放たれる鋭い剣閃！
　月はそれをカラテ感知力によりコンマ１秒で見切り、浅山を抱えながら真横へジャンピングダイブ！
「ぐっ……うがああぁぁ！？」
　しかし、月の発作は収まらない！
「ハッ……いいザマだな、朔の月＝サンよ……！」
　声のする方向へ浅山は振り返った。
　その姿は寝子高女子生徒……のコスプレをした、結構いい歳した女性だった。
　女性の名は鳳翔 皐月という。だがその名はニンジャである彼女にとっては不要であった。
　剣呑な印象を与えるつり目は、カラテのチカラで赤々と輝いている。
　口元は炎のように揺らめく陽炎めいたマフラーをメンポ代わりに覆っていた。
　彼女は華奢で細い手脚で、その胸は平坦であった。

「ドーモ、お久しぶりです。イアイドーニンジャのフェニックスです」
　フェニックスは両手を合わせてお辞儀をした。
「……ドーモ、フェニックス＝サン……、朔の月……です……グゥ！？」
　発作に耐えながら、月もまたお辞儀をした。
　フェニックスは制服の内ポケットから、『実際命の水な』と書かれたウィスキーボトルに直に口をつけてあおった。
　安心したまえ、諸君。
　女子高生の姿でも、フェニックスは25歳の成人女性、アラサーだ。
　法的に飲酒は認められているのだ！！
　コンプライアンス！
「ぷはぁ！　なぁ、ちょっと愚痴っていいか？　大体よぉ……」
　自身の格好を眺めたフェニックスは、わなわなと体を震わせた。
「いい加減にしろよ、この野郎！　馬鹿野郎！　望んでもいねえのにこんな格好すっか、スッゾコラー！」
　スラング混じりに罵声を吐いた。
　テオの世界分離に巻き込まれた上に、以前もニンジャとして魔法少女と戦っていたフェニックス。
「つまり、さすがに２回目にもなると忍耐と堪忍袋の限界だ。というわけで、好き勝手に暴れてぶっ潰してぶっ飛ばして暴れる」
　これはあからさまに八つ当たりだ！
　そして愛刀カンナヅキの柄に手をかけるフェニックス。
「まずはニンジャのくせに魔法少女を庇うてめえからだ」
　この構えは刀の射程内に入った相手を容赦なく紫電一閃するイアイドー基本形にして究極形の必殺の構えである。
　一見、受身の構えにも思えるが、自身が標的に向かって高速移動することで強制的に間合いを詰めてしまう地獄の剣技である！
「逃げましょう……小淋さん……！」
　浅山をお姫様抱っこしたままニンジャ跳躍で逃走する月！
　しかし、それを黙って見逃すフェニックスではない。
「イヤァーッ！」
　しゃりしゃりしゃりんっと鍔鳴りが３回した次の瞬間、空気の刃と化した衝撃波が月と浅山を襲う！
　イアイドーマスターは剣圧をソニックブームとして発射できる。
　ニンジャの常識だ。
「グワァー！？」
　月は浅山を庇うように被弾！
　そのまま真下へ墜落していった。
「……トドメは……ま、いっか、面倒だ」
　もう一度、ウィスキーに手を伸ばすフェニックス。
「どうせ、あの様子じゃ長くは持たねぇな。魔法少女を目の前にして、手を掛けないなんてニンジャ本能が拒絶するだけだ。拒み続ければ発狂して、大事そうに守ってた魔法少女を殺して自刃するだろうさ。……インガオーホー……」
　フェニックスは吐き捨てるように呟いた。
「ああちっくしょうが。勝手に私の脳内に世界設定が植え付けられる！　なんだよ変態のセクハラでカラテが増すって！？　意味が分からねえ！」
　強化手段が変態に依存している世界観に、フェニックスの心が更に荒んでいく。
「……とりま変態は最優先で去勢する。強化？　知るか。私に触れていい奴はこの世でたった１人しかいねえんだ。そして魔法少女は次にぶっ潰す。ささやくんだよ、私のニンジャソウルが……！　そんで、あのパルプだかパンプスだか知らねえ乳デカエアヘッド女は気にくわねえから捻り潰して細切れにしてぶっ殺す」
　フェニックスは護衛対象であるこの事件の首謀者のパンプキンクイーンを殺害しようとしていた。
　全ては推定Ｈカップ（B103/W58/H86）のクイーンのおっぱいが悪いのだ！
「さあて、そうと決まれば皆殺し。今から私は無慈悲な殺戮者だ。不意打ち闇打ち奇襲挟撃暗殺罠死なんでもありさ。『犬ともいへ、畜生ともいへ、勝つ事が本にて候』ってな」
　愛刀カンナヅキを携え、フェニックスはマジカルネコジマ空間で獲物を求めてさまよう……！

＜フェニックス：辻斬り開始＞