悠久の時の彼方へ～牢獄の聖女｜リアクション

悠久の時の彼方へ～牢獄の聖女

「あの馬車、行かせてよかったのか？」
「一応、報告を上げておくか―――」
　馬車を見送った衛兵たちに、近づく人影があった。
　事前の打ち合わせ通り、衛兵の記憶を消すため、仲秋薫が現れたのだ。先ほどとは服装は変えてあるが、顔は隠している。
「―――あなたは何も見ていない……」

　関所を越えた馬車は、急ぎ走り出した。ルーアンの街が視界から消えるまではアミアン方面に向かって走り、見えなくなったらオルレアンに進路を変える。ロザリーはねむるや圭花を信頼し、馬だけに集中した。
　荷台では、圭花がマルグリットに付き添い、ねむるが周囲の様子を警戒する。
「まずい、追っ手が見える！」
　運悪く、物々しく武装した騎馬の一団に見つかってしまった。
　ねむるは追っ手の速度を緩める攻撃を加える。馬や兵士の顔を狙い、石ころを投げつけるのだ。それでも、相手は追いすがってくる。
「桃川さん、樽を落とすのを手伝って！」
「うん、わかった！」
　ねむるはダメ押しとして、油のいっぱい詰まった樽を馬車から蹴落とした。地面が油まみれになり、馬は走れなくなる。
「はは、滑って動けないでしょ。んじゃ、お先に～」
　兵士たちを挑発してから、馬車は進みを早めようとする。ところが―――
　ルーアン方面から、さらに多くの騎馬兵が馬車を追ってくるのが視界に入った。その数は、十騎以上はいる。
「ロザリーさん、速度をもっと！」
「だめ、馬が疲れてきてるわ！」

　油まみれの場所も迂回され、馬車はついに騎馬兵に追いつかれた。
「止まれ！なぜ兵士を妨害した上逃げた。尋問に答えてもらおうか」
　隊長らしき男が馬を寄せてくる。

　ここまで来たのに―――ロザリー、ねむる、圭花は青ざめた顔で互いを見合わせた。
ジャンヌを牢獄から救出し、マルグリットを火刑台から救出し、順調にことは進んでいたのに。
やはり、運命は変えられないのか……

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