悠久の時の彼方へ～牢獄の聖女｜リアクション

悠久の時の彼方へ～牢獄の聖女

Une.

　間宮芽瑠は、いきなり自分の周りの景色が変わってしまったことに、目をぱちくりさせた。さっきまで、シーサイドタウンで買い物をしていたはずなのに、ヨーロッパを思わせる田園地帯にいる。
「いったい、何が起こったの……？」
「また、予期しない人を巻き込んでしまったか……すまないね。人間を時空転送する力は制御が難しいんだ」
　声のほうを振り向くと、灰色のシャツを着た少年と、彼を取り巻く一群の人。
「あんたも、巻き込まれたくちだな」
　芽瑠に声をかけたのは、黒い肌と色っぽいスタイルが特徴の女性。吉祥寺黒子だ。
「星ヶ丘寮に帰る途中、光に包まれたと思ったら……中世フランスにタイムスリップしてたんだとさ」
「そんな……タイムスリップなんて、ありえません！」
　芽瑠はにわかには信じない。きっと、これは夢なのだろう。
「信じるかどうかは君次第だが―――とにかく、僕―――築地哲から、皆に状況を一度説明しておきたい」
　築地と名乗った少年は、皆に向かって淡々と説明を始めた。今彼らがいるのは1431年5月29日朝のフランス、ルーアン近郊であること。ここにいる面々は、多くは以前ジャンヌ・ダルクと共闘していたこと。今回、ジャンヌ・ダルクを火刑台から救うために現代人が呼ばれたこと。しかし、ジャンヌを救うには多くの関門があること。ジャンヌを救えても、マルグリットの命と引き換えになること―――

「いやいや、なんでだよ！俺は希望してないっての！大体、ジャンヌ・ダルクを助けるとか……歴史に干渉なんて、あんたら大それたことを……」
　黒子は話を聞き、驚くとともにあきれる。
「アタシだって、歴史を変えるのは抵抗あるわよ。アタシたち部外者に歴史をどうこうする権利はないわ」
　口を開いたのは尾鎌蛇那伊だ。
「でも、大筋の歴史を変えずに人を助ける道を、この築地ちゃんって子は示してくれたのよ。妥協点が見えたなら、後は全力でやるのみじゃないかしら」
「……ああもう！俺も手伝えばいいんだろ！乗りかかった船だよ、ったく」
　黒子がやけくそ気味に答えると、半信半疑に話を聞いていた芽瑠も言う。
「無実の罪で処刑される人を見逃すわけにはまいりませんね……私も手伝います」
　夢の中だとしても、誰かを助けるためなら一肌脱がないと。芽瑠はそういう性格だった。

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