Search for lost books｜リアクション

Search for lost books

　「こんにちはー！　真央ちゃんは寝子島高校１年生です！　今、寝子島高校の図書室は本が足りないそーです！　無償で本を寄贈して下さる方はいらっしゃいませんかー！」
　シーサイドタウンの通りをリヤカー引きつつ走る女子生徒は後木真央、陸上部所属の１年生である。
　図書室からのお知らせを読んだ彼女は、彼女なりの理解と親切心でリヤカーを借りて走り回っていた。
　事情を聞いてくる学校の生徒に彼女はこう答える。
　「何かねー、珪ちゃんセンセーが図書室に本が足りない？　とか騒いでるんだって。だから真央ちゃん、島中の人に本の寄付をお願いするんだっ！」
　リヤカーを引く姿が目立つのか、彼女の大声が響くのか、興味本位で人々が不要な本を持ち寄ってきていた。
　「ありがとーです！　う、こういう雑誌は学校の図書室には置けないので……ごめんなさいっ」
　日焼けした小説を受け取ってお礼を言う傍ら、あからさまな漫画雑誌などは断っていく真央。
　そうしていくうちにリヤカーには新旧、大小様々な本が積まれていく。それはリサイクル業者の回収のようでもあった。
　猫がいれば追いかけて、荷物の多いお年寄りがいればタクシー代わりにリヤカーに乗せて送っていく。
　そうして彼女は寝子島を駆け抜けていく。そんな中で。
　「あ、猫好きの人発見ー♪」
　人懐っこい笑顔を浮かべて、真央は猫のヘアピンをした女子生徒に声をかける。
　それは校外の長期未返却者のところへ回収へ向かっていた恵御納夏朝であった。ジャケットの胸元からは猫型パペットがだるーんと顔を出している。
　「本、集めてるの？」
　声をかけてきた真央のリヤカーを見て夏朝は首を傾げる。
　「うん！　本の寄付お願いしてるんだ。たくさん本持ってきたら珪ちゃんセンセーも喜ぶよね！」
　無邪気に真央は答える。
　「じゃあ、これ」
　真央の意図をなんとなく理解した夏朝は猫印の名札を彼女に渡す。『図書委員手伝い』。
　「猫グッズ！　ありがとーっ。じゃあ真央ちゃんからはこれ！」
　と、猫型のアップリケを夏朝に渡す。
　「ありがとう」
　笑顔をこぼす真央と、無表情のまま嬉しそうな夏朝。小さな猫グッズの交換会であった。

　図書室の片隅に積み上げられたプログラミング関連の本の山。その山の隙間でものすごい速度で、書籍を読み耽っているのは、１年４組のアン・リアルである。本の山がなければ気づかれない程度には影の薄いことが彼女の特徴でもあった。

　バタン。

　と、アンは分厚い辞書のようなプログラミング言語の本を閉じて顔を上げる。
　そこには慌ただしく動き回る図書委員と図書委員手伝いの姿。
　「なんだか、大変そうだね」
　そう呟いてアンは席を立ち、近くであたふたしている図書委員、勅使河原悠に声をかける。
　「回収……手伝おうか？」
　存在感が希薄なアンはわざと悠の後ろから話しかける。
　「わ！　……え？　お、お願いします！　回収する人も……足りなくて、ええっと……」
　悠は驚きつつも、アンの申し出に感謝して回収を委託する。
　「あたしはアン。どこに回収に行けばいいの？」
　自己紹介をしつつ問いかけるアン。
　「図書委員の……勅使河原悠です。あ……これを。お願いします……」
　悠は未返却リストのコピーを１枚アンに渡す。そこには星ヶ丘寮の未返却者リストが並んでいた。
　「星ヶ丘寮ね。連絡先が解れば携帯からええと……すぐにその人の所に行けるから」
　自身のろっこん能力のことを濁しつつアンは了解する。
　「近道とか……知ってるんですか？」
　アンの言葉に首を傾げる悠。
　「そんな感じ。じゃ」
　素っ気なく返事をして、アンは図書室の隅の方へ歩いていき、携帯を開いた。

　『ＵＮＲＥＡＬ』