怪人セブンの暗躍｜リアクション

怪人セブンの暗躍

　その光景を見守る桜庭たち。
　菜々緒の表情は暗い。
「図書館を出て、食事中に偶然出くわしたってシチュエーションの方が自然だよね」
　桜庭の提案は採用され、ここではまだ対面を避けているのだ。
「……」
　菜々緒は終始無言だ。
　時折、泉月花を盗み見てはすぐに正面を向く動作を繰り返していた。
「菜々緒、平気か……？」
　月居は菜々緒の顔色を伺った。
　これに菜々緒は小さく頷くだけだ。
　相変わらず煮えたぎらない態度の菜々緒に、戌井は呆れ果てて小説を読み耽っていた。
　李も菜々緒の変調を気にかけながら、周囲の警戒を怠らない。
　どこから大罪持ちが接近してくるかわからない、と気を張り巡らせているのだ。
　だが、余りにも重苦しい空気に李は耐え切れず、菜々緒に話題を振ることにした。
「菜々緒、ビリオンのこと、快く思っていないのだ？」
　これに菜々緒は困ったように眉間にシワを寄せていた。
「九重さんは、私の未成年後見人なの」
「……みせいねんこうけんにん、ってなんなのだ？」
　聞きなれない単語に、李は口をぽかんと開けてしまう。
　菜々緒は簡潔に説明していく。
「私みたいに親族をなくした未成年が遺産を受け取るとき、親族法で遺産の管理者を立てなきゃいけないの。その管理者は最後に親権を行使する者、つまり私の場合は義父の白山が生前に指定ができるんだけど……その指定した相手が、九重さんだったの」
「要するに、白山の遺産の管理は、実質、メサイアのリーダーであるビリオンが行っていると……」
　桜庭が腕を組んで考え込んだ。
「そういうことなの」
　菜々緒の表情は一向に冴えない。
「実は、九重さんとも面識があるの。でも、ここ数年まったく会っていなかったわ。家庭裁判所で久々に顔合わせたときは目眩を覚えたもの……」
「ナナオでも気が動転するんだねー」
「当然よ、円ちゃん。よりによって、教団の尖兵だった私の財産を敵対集団のリーダーが掌握しているのよ。私自身はもう教団から籍を抜いているけど、なんだか監視されているみたいで息苦しいわ……」
「その上、体よく伝令役を押し付けられてるもんねー」
　戌井が嫌味たっぷりに言葉をぶつけた。
「白山のことだから、なにか考えがあってのことだろうけども……。九重さんは昔から何を考えているか分からない部分があったから……」
　不安そうに呟く菜々緒。
「でも、教団の陰謀を見過ごすなんてできなかった。みんなを巻き込んででも食い止めないと、黙示録を奪えないから」
「だから大人しくビリオンに協力しているんだね」
　若干腑に落ちない様子の桜庭だが、ここは腹の中に自分の意見を押し込んだようだ。
「それじゃ、ボクたちはもう少し様子見だね。黒子ちゃんたちが食事の約束を取り付けてくれるだろうから、そこからが本当の出番だ」
　菜々緒同行班は、今は無闇に菜々緒への心労をかけるつもりはないようだ。
　その時が来るまで、今はじっと雌伏の時である。