【エクストリーム☆テーブルテニス・ダブルス】

「試験。テスト。中間考査……そんな言葉を聞くたび、アホ共は揃いも揃って拒否反応を示すわけだ」
　彼女の行動には常に、一貫した論理というものがあるのです。
　すなわち、押して通る。無理にでも！
「でも所詮はテストなんて、問題を解いて返すだけ。卓球のラリーみたいなもんだ。つまり……卓球こそがテスト！　ってことさ」
　ハタから見ますとスゴイ論理の飛躍ですけれど、彼女はもちろん真剣です。卓球こそテスト、これは真理！
　というわけで、す、と取り出しましたのは……ラケット！
「１年３組、桜崎 巴ッ！」
　勇ましく名乗りを上げつつ、ピンポン球を、かこんっ！
　強烈なサーブ球が机の上をかこんと跳ねて、鋭く向かったのは、
「へぇ……私を指名するなんて、面白いじゃないか」
　試験監督、高野 有紀先生！　高野先生はにやりと笑って……何故かばっちり用意していたラケットをすっと構えて、かこんっ！
「試験でも倒す。試合でも倒す！　それが常に、あたしのやり方なのさ……！」
「なら、ラリーの相手は私が務めようじゃない。この問題が……解けるかなっ！？」
　高野先生が問題を読み上げ、かこんっ。巴がそれに答えて、かこんっ！
　エクストリーム卓球！　お見事なのは、卓球台代わりに講堂の机の上……多くの生徒たちが問題や答案用紙を広げているその上を、かこんかこんと経由しまして、寸分違わずに相手のもとへと球を届けていることです。
　かこん、かこんっ、かこ、かこんっ！
「私も、伊達に体育教師やってないからね。負けられないな！」
「おおっと！　さすがにやるね……なら、こっちも！」
　かこかこかこん、と激しいラリー、もちろん合間には英語問題とその解答が飛び交います。
　と、
「……しまった！？」
　高野先生が弾き損ねた球は、机の上で跳ねてはるか後方へ……ラリーはあえなく失敗、かと思われましたら。かこん！
「俺も混ぜてもらえるかな？」
　現れたのは、八神 修！　もちろんラケット持参にて、参戦！
「修か！　あんたは頭脳派のインドアだと思ってたけどね」
「俺は運動神経が無いわけじゃない、体力が追いつかなかっただけだよ……今までは、ね！」
　かこんっ！　修の打ち返した球速は確かに鋭くて、彼がこのところ頑張っているという体力づくりは確かに、実を結びつつあるようでした。
　巴はにやりと笑い、
「なるほど……手加減はいらないってわけだね！」
「ああ、全力で！　来いっ！」
　活き活きとした生徒二人に、高野先生も負けじと球を返して、かこんっ。
　卓球勝負は、三つ巴の展開！
　高野先生は主に机の上を、巴は時に誰かの問題用紙の上や生徒の頭そのものまで使い、かこんっと打ち返しているのに対して、修はその性格の違いからでしょうか？　彼が卓球台の代わりとしてかこんと球を経由させているのは……床、壁。天井！
　あらゆるスペースを使い、縦横無尽にピンポン球が跳ね回る、これぞエクストリーム☆超次元卓球！
「っと、させるか！」
「さすがだな、桜崎……なら、これはどうだ！？」
　巴は球を追って、机を蹴ってジャンプ！　壁の黒板に当てて打ち返せば、高野先生が並んで座る生徒たちの間を抜きながら打球を通し、修は頭上へ弾き返して急降下させる、天井スマッシュで応戦！
　跳ぶ、打つ、出題する、走る、解答する、打つ、ジャンプして、壁を、天井を、誰かの答案用紙の上を。かこん、かこんっ！
　目まぐるしい攻防のさなか。飛び交うピンポン球の真っ只中で、さらさらと鉛筆を走らせる旅鴉 月詠、ラフスケッチを量産する三宅 葉月が、ぽつり。
「激しいラリーだね、これは」
「そうね……激しいわね」
「誰がハゲじゃ、コラァァァアアアッ！！」
　ぴかりん！　誰もそんなことは言ってませんけれど、ともかく頭からまばゆい光を放ちながら、九十九髪 夜光も乱入！
「やいやいやい！　卓球部部長の俺を差し置いて、卓球勝負なんぞしおって……俺とも勝負せんかい！　くらえ俺のナックルサーブ、秘技！　百鬼夜行ーーーッ！！」
　どかんっ！　超次元卓球は、更なる高みへ……！

高野先生：９点「カカカッ！　私の球に、付いてこれるかなっ！？（得点札上げつつ打ち返し）」
泉先生　：４点「そうそう。台が無ければ、代わりになるものを探せばいい。そうして人は進んでいくんだよ」
樋口先生：５点「あまりに速くて、目が回ってしまいそう……卓球ってすごいのね」



【エクストリーム☆ゾウキング】

「何っ！？」
　つるんっ！　巴は打球を打ち返した拍子に、なにやら滑る床に足を取られて、くるんっと引っ繰り返ってしまいました。
　ただ、ごいんと大きな音がした割りに、彼女が固い床で腰やら頭を強打することが無かったのは、
「……良いサポートじゃないか、変態総代。褒めてやるよ」
　どこからともなく現れて、滑り込んで下敷きになった横嶋 下心が身を呈し、クッション代わりに彼女を守ったからでした。
「巴ちゃんのためなら、いつでも座布団にでも何でもなるよ！　だからお礼におっぱい揉ませてください！」
「後でね、今は大事な試験の最中だからね……！」
　さて。
　そんなシーンも見られますように、講堂内では、激しいパフォーマンスの応酬が繰り広げられておりまして。篭もった熱気に、生徒たちの美しい汗が弾けて……気付けば、汚れてしまっているわけなのです。汗で床が。
　そんなところに立ち上がったのが、椿 美咲紀でありました。彼女もまた学校指定のジャージに身を包み、気合十分！
「床の雑巾がけ、一往復に付き一問！　美化委員として、華麗に雑巾をかけながら問題を解くのですよ！」
　問題をひとつ読んでは、美咲紀は水を絞った雑巾を床に据えて。ダッシュ！　猛ダッシュ！
　モップのほうがラクなんじゃない？　と見ている人は思ったかも知れませんけれど、彼女は言うのです。
「こっちのほうが、エクストリームっしょ？」
　エクストリーム☆雑巾がけ……！　これが意外と過酷でありまして、机の間をきゅきゅきゅーっとダッシュして戻るたび、かりかり。きゅきゅきゅっと雑巾かけては戻ってきて、かりかりかり。カロリー消費だってきっと、半端じゃない！
「うん、何だかアドレナリンがぶわーって出て、頭が冴えてくる感じです！」
　美咲紀が脳裏にイメージしておりますのは、大きなお寺のお堂の中。思い切り雑巾かけつつ駆け回る様は、まるで厳しい修行のよう。
「だから邪念とか煩悩がぱあっと取り払われて、集中力が上がってくるんですね！」
　なんて言いつつ、美咲紀はダッシュ！　戻ってきて答えをかりかり、再びきゅきゅきゅのきゅっと雑巾がけ。確かにハードで、エクストリーム！
「シュー君、ちょっと通りますよー！」
「ああ、ご苦労様……そこだ！」
　かこんっとスマッシュを放つ修を始め、かこかことラリーを続ける卓球勢の足元も、美咲紀はきゅきゅきゅっ。
　しゅば、ずば！　と演舞を見せている奈良橋 博美の下も、
「通りまーすごめんなさーい！」
「おっ、悪いな、サンキュー！　はッ！」
　びゅおっと繰り出す正拳突きを潜り抜けて、きゅきゅっきゅっ。
「通りますよー、って顔色悪いですけど大丈夫です？」
「ふ、フフ……あっしのことは、気にしないどくれ……くふふッ」
　真っ青を通り越して白い顔の骨削 瓢、滴る脂汗も残さず拭きふき、きゅきゅきゅのきゅっ！
　戻って問題の答えをかりかりと書き入れるたび、美咲紀自身もまた、きらきらと美しい汗を額に滲ませながらに、
「これは……素晴らしい！　教科書や辞書の内容が、鮮明に頭に浮かんできます。雑巾がけしながらの勉強、これはきっと、流行るのですよー！」
　制限時間内に答案用紙を埋めつつ、講堂の床もピカピカ、キレイにするために。
　美咲紀は素早く、華麗に、雑巾がけ！
「さあ、時間までもう少し！　みんなでガンバローっ！！」

高野先生：８点「おっと、悪いね、ありがとさん！　ぃよっと！（かこんっと打ち返しつつ、得点札ぱっ）」
泉先生　：５点「講堂が見る間に光り輝いていく……まさしく、美しいパフォーマンスだね」
樋口先生：４点「さすが美化委員ね、助かるわ。みんなもきっと、感謝してくれるんじゃないかしら？」