時間を切り取るカプセル｜リアクション

時間を切り取るカプセル

　　【２００年後に送るもの】

　──タイムカプセルイベント前日──

　町中で配布されている中の１枚を、ふと綾辻綾花は手に入れた。
「タイムカプセル……ですか」
　綾花は不思議そうに首をかしげた。歩いていた足を止める。
　タイムカプセル──唐突に言われても、実際のところ綾花には何を埋めれば良いのか皆目見当がつかなかった。
　詳細内容が記載されたチラシを見ながら、前方には注意しつつも再度歩き始めるものの、ついそれからは目を離せない。

　チラシに写真が掲載されていた。その卵に似たタイムカプセルを眺めながら思案する。
　２００年もの時間が保障されたタイムカプセル。その壮大な時間を前にすると、まずそれに見合う何かをやろうとする事自体が思いつかない。

　そのままぼんやり歩いて、綾花の目の前にあったのは駄菓子屋さん。
　入り口近くに飾られている、モールワイヤーで出来た１匹１０円のひよこと、少し離れた所に置かれたタオル地のひよこをそっと手に取り見つめてみる。

　２００年という時を経て、卵型のタイムカプセルの蓋を開けて中にひよこの人形が入っていたら、きっと面白そうだとは思うが、当の子孫には間違いなく呆れられてしまう事だろう。

　仕方なく、その案はそっと胸にしまっておいて、綾花はまず携帯のアルバムを見やる。
　そこにはまだプリントアウトされていない猫の写真が数十枚ほど溜まっていた──これを２枚ずつプリントアウトして、１枚をタイムカプセルに、もう一枚を通常の保存用にあるアルバムに収めればよいのではないか。

　早速やるべき事が決まったと、綾花は勢い良く歩き始めた。他にも是非タイムカプセルに収めて未来に送りたいと思うものが次々に浮かんでくる。
　これは早速、急いで明日への準備をしなくては。綾花は足取り軽く歩き始めた。

　ジェレミア・ベルトーニは病院の患者さんから、一枚のチラシを受け取った。

　診療中であったから詳しくは見れなかったものの、診療時間が過ぎ隣接する自宅に戻って、一息ハーブティを飲みながら話題にと受け取ったチラシには、
「２００年のタイムカプセル……！」
　ジェレミアは目を輝かせた。２００年後まで残せる存在を思わず脳内で逡巡する。
　そして、それは余りにも早くに見つかった。

　趣味はガーデニング──残せるのならば、花の種を未来に残したい。
　ジェレミアは飲みかけのハーブティをそのままに、常に常備している緊急診療用の携帯を片手に、夜遅くまでやっているホームセンターまで足を伸ばした。
　ホームセンターには様々な花の種が並んでいる。
　朝顔から始まり、ひまわり、アスター、デイジー、プリムラ、ペチュニア等、バラエティに富んだ花の種を買い集めた。
　誰でも簡単に育てられる花達の種。

　──もしかしたら、２００年先の未来には残っていない種の花もあるかも知れない、そう思うと、本当はタイムカプセルに入れるには良くない品なのかも知れないけれども──

　それでも、もし２００年後を本気で夢見るならば、と。ジェレミアは一緒に乾燥剤と小振りの遮光袋を一緒に買って胸のときめきを隠せず自宅へと戻っていった。

　明日一緒に持っていくのは、自宅の庭に咲いていた満開の花の写真。
　そして、植物図鑑と園芸入門書を用意して。

　用意している間だけでも、もし２００年後の人がこれを開けるのならばと思うと、それだけで心が胸が高鳴る。
　ジェレミアはそれだけで明日が待ち遠しくて仕方が無かった。
　幸いにして明日は休診日。緊急用の携帯だけは忘れないようにしないと、と改めて思いながら、用意をきちんと整えた中身をタイムカプセルに入れて埋められる明日という日を心待ちにした。

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