猫又川でのんびりと｜リアクション

猫又川でのんびりと

　猫又川と桜川の合流地点は入り組んでいる上に意外と広い。川によって三カ所に分断されていた。
　七峯亨はモスグリーンのジャンパーに黒いジーンズを穿いていた。桜川に架かる橋の上から合流地点を眺める。
「姐さんの誘いで来たのはいいが、どこから探しゃいいんだ？」
　髪を揺らす風は山側から吹いていた。風下に当たる変電所に目がいく。周辺は木々で覆われていて少し下れば川端にも出られる。
「近いところからいくか」
　肩に引っ掛けたナップサックを引き上げると、亨は無造作に木々の中へと分け入った。大柄な身体を折り曲げて奥へと進む。湿った土壌を目にすると鼻を近づけた。
「湿った腐葉土か」
　見切りを付けた亨は川へと下りた。視線を下げて辺りを歩き回る。色の付いた石は即座に手に取った。
「……温泉藻じゃねぇな」
　気のない様子で川面に捨てた。歩けるところに温泉は湧いていなかった。
「あとは上流の方か」
　亨は対岸と川面を交互に見やる。緩やかな流れの中で川床が揺らめいていた。
「浅いように見えて、そうでもなさそうだな」
　川面に指先を入れて、すぐに引き抜いた。
「ここで無理はできねぇ。姐さんの胸に挟まるまでは――」
　亨は下心が見え隠れする笑いで駆け出した。瞬く間に対岸へと移動を果たす。
　幅の狭いところを歩いて左手に回り込んでいく。猫又川の合流地点を越えた先で足を止めた。今までにない勢いで何度も息を吸い込んだ。
「これ、絶対に温泉だろ」
　周囲に視線を飛ばした。おおお、と声を上げて一方へと走り出す。崖の一部の岩に鼻を近づけた。
「量は少ないが確かに温泉だぜ！」
　岩の割れ目から温泉が流れ出している。真下の石の表面は黄色く変色していた。亨は邪魔な石を手で転がした。適度な窪みを確保すると、今度は大小の石を組み合わせて湯船を作り始めた。
　夢中で動かしていた手が不意に止まる。
「温泉の発見を二人に伝えねぇとな」
　汚れた手を川で洗ったあと、亨は二人に電話を入れた。手短に場所を伝えると嬉々として作業に戻っていった。