猫又川でのんびりと｜リアクション

猫又川でのんびりと

　猫又川に向かう道を哀坂極夜が走っていた。黒いトレーニングウェアを着用している為、日曜日の早朝にジョギングを楽しんでいる姿に見える。ただし表情には焦りが滲み出ていて四方に視線を飛ばしていた。
　諦めたかのように速度を落とす。通常の歩行に戻って猫又川の河口を目指した。周囲を見回すこともしなかった。
「……日曜日の早朝には、人がいないのですね」
　極夜が当てにしていた人の姿が見えない。新たな温泉の情報は得られそうになかった。
「自力で探し出せばいいのです」
　気を取り直して少し足を速めた。スタジアムの周囲を回って河口に辿り着いた。僅かに風が吹いている。
　極夜は掌を空に向かって伸ばす。視線が動いて九夜山を眺めた。
「山の方から風が吹いていますね」
　軽い身のこなしで川辺に下りた。匂いを嗅ぐように鼻を動かす。その状態で上流に向かって歩き出した。
　極夜の表情が急に緩くなった。
「……温泉を見つければ咲さんと一緒に――」
　頭の中から零れた妄想に極夜は猛然と頭を振った。
「いけない、いけない」
　自制を強いる言葉を繰り返し、尚も緩んだ表情でふらふらと歩いていった。

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