猫又川でのんびりと｜リアクション

猫又川でのんびりと

　薄暗い自室。矢萩咲は横向きで浅い眠りに就いていた。掛布団は足元の方で丸くなっている。
「極夜君……亨君も……咲の背中を……洗ってくれる、のだな……」
　どこか表情が柔らかい。自然に背筋を伸ばした。
「……もう少し、強く擦って……」
　切ない表情を浮かべて呟く。
　急に咲が背中を丸めた。はにかむような笑みを浮かべる。
「……亨君、なんで咲の……胸を触るの……極夜君まで……」
　少し唇を尖らせる。その表情には微かな笑みが残り、嫌がっているようには見えなかった。
「……咲の肌が……すべすべ、だから……手が、滑る……それなら……仕方ない、わ……」
　ふふ、と咲は笑った。何度か寝返りを打ち、仰向けとなる。
　寝息が止まった瞬間、目を見開いた。
「……温泉だ！」
　咲は飛び起きた。急いで部屋のカーテンを開け放つ。
「まだ暗いな」
　窓辺を離れて部屋の時計に目を向ける。午前五時半を少し回ったところであった。
「……今は朝だな」
　うんうん、と頻りに頷いて咲は立て続けに電話を掛けた。相手は哀坂極夜と七峯亨であった。突然の呼び出しに戸惑いながらも二人は用件を尋ねた。猫又川で温泉探し、という熱意の籠った一言にほだされ、付き合うことになった。
　細かい打ち合わせを経て咲は着替えを済ませる。山登りに適したパンツルックとなり、小ぶりのリュックを背負った。
「絶対に源流で温泉を探し当てるわ」
　力強い言葉で拳を握ると、咲は部屋を飛び出していった。

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