さぁ、メンタルトレーニング合宿だ！　in　錬心寺｜リアクション

さぁ、メンタルトレーニング合宿だ！　in　錬心寺

承：まだまだ続くよ修業体験

　足が痺れてしまったり、眠気がとれないといった寝子高一行の様子に住職の静天はからからと笑っている。
（器が大きいのか、それとも笑いのツボが合ったのか……）
　静天の様子を静かに見ていた逆巻天野は自分の知っているお坊さんとちょっと違うような気がしていた。
「眠い人や足が痺れている人もいるみたいですが、少し休んでから法話にしましょうかね」
　一通り笑った静天は静かにそういい、一行はしばし休憩することになった。

　その休憩中。何を思ったのか、桜庭円が自己紹介をすると静天にこんな質問をしていた。
「あのっ、巧せんせーもこのお寺でトレーニングとかしていたんですか？」
「巧先生……？　あぁ、あの切れ長の目の……。下見に来てくださった際初めてお会いしましたね」
　静天の答えに円は不思議そうにしていた。円は自分がボクシング部で巧の世話になっている事を告げると、住職は申し訳なさそうに言う。
「牛瀬先生については、先日初めて会いましたので詳しいことは……。ただ、幼い頃暮らしていた部落の寺を思い出す、とか言っていましたよ」
「子供の頃、かぁ」
「興味がおありでしたら、本人に直接聞いてみてはどうですか？」
　静天にそう言われ、円は少し考えてから１つ肯いた。

　休憩の後は法話の時間。今回は、食べ物に関する法話で、まゆは少しうつらうつらしそうになりながらもしっかり聞こうと背筋を伸ばしていた。
（もしかしたら、こういった役を演じる事になるかもしれない）
　そう考え真面目に話を聞いているのは大久保仙太郎。彼は芸術科で演劇を専攻している。それ故に、これを台本の読み合わせを聞いているような物、と思う事で眠気を気にすることなく集中して聞いていた。
（面白い話も、聞けるかもしれないな……）
　傍らの邪衣士もしっかりと背筋を伸ばし、正座して聞いていた。話の内容に耳を傾けつつも、そこから思い出した事に思わず笑いそうになりながらも、彼はしっかりと聞いていく。
（ストレスに、強くなるためだ。がんばろう）
　仙太郎が顔を上げなおして内心で呟く。そんな彼の中ではこんな事が考え出されていた。

　　　　　メンタルを鍛える→ストレスに強くなる→健康になる

（つまり、『ストレスとは精神を鍛えれば克服出来る』筈。このトレーニングをやり遂げてストレスに強くなりたい。いや、なってみせる）
　胃をそっと押さえ、「生きろ」と応援（？）する仙太郎。そんな横顔を見たまゆは「気合が入っているわね」と楽しそうだ。
　だが、実を言うと仙太郎はメンタル面でいうと強い方なのである。強い方なのではあるが……『ストレスの発散』が上手に出来ないタイプなのである。
　ストレスを溜め過ぎて体調を崩しやすいが故、彼は『自分はメンタル面が弱いのでは？』と考えるようになっていた仙太郎なのであった。
　説法を聞きながら、士はふと、猫鳴館の仲間たちの事を思い出した。欠食児童が特に多いであろう彼らにも、この話を聞かせてあげたいと思いながらも、こういう細かな話も大切だな、と真面目に肯く。その中で、特に自分の成長に役立ちそうな言葉は心の中にストックしておく事にした。

　暫くして法話が終わり、写経の準備をする事に。
（さて……）
　と立ち上がろうとした仙太郎だったが、そこで足になんともいいがたい感覚が……。
（痺れた……）
「やっぱり、説法でも足を痺れさせた人が居るよねぇ～」
　女性じゃないので手助けしないらしい八十八旗信彦が楽しげにそういう。しかし、立ち上がろうとして仙太郎はバランスを崩し倒れてしまった。それに巻き込まれ下敷きになる信彦。
「うわぁっ？！」
「ちょっ！　こんなの嬉しくないって！」
（……なんかちょっとだけ、すっ、とした）
　惨状（？）を目撃した桃川圭花はなんだかとっても清々しい顔になったという。