さぁ、メンタルトレーニング合宿だ！　in　錬心寺｜リアクション

さぁ、メンタルトレーニング合宿だ！　in　錬心寺

結：家に帰るまでが修行です？

　いよいよラストは護摩焚き。滝行を終えた生徒たちも着替えを済ませ、全員で行う。今回、トップバッターとして相原まゆが初めに行い、あとは学年順で行う事になった。
　最初に静天から説明がある。彼は一本の護摩を見せながら行の由来はバラモン教の考え方で、「天の口とされる炎で焚くことによって煙が上がり、天上では食が得られ、変わりに私たちには福が得られる」と簡単に説明すれば、生徒たちは感心したように聞き入る。特に、八神修は学んでいたのだろうか、うんうんと相槌を打って２つの光（慈愛・智慧）にも思いを馳せた。
（……本来、色々な役割がある筈だ。俺が役に立てる事はあるだろうか？）
　そう考えていたものの、こまごまとした事はお寺のお坊さんが手伝ってくれていた。修は指示を仰ぎちょっとだけ手伝わせてもらう事に。
「また、護摩を焚くだけではなく、自分の中にある煩悩を観念的に仏様の智慧を使って燃やすものも護摩行ですね。これは内護摩といい、実際にこれを焚いて祈るのは外護摩といいます」
　その他、祈る内容によって祈りの中心にする仏様が違い、大きく４つに分類される事を聞いた。
　いよいよ本番。まゆは護摩に向かう前、廊下でかるく空手の型をやってから挑んだ。経を上げながら火に向かい、経を唱えるまゆの背中を見、羽生碧南は少し大きいな、と感じていた。
（うわぁ、半端なく熱い……）
　汗が滝のように流れていく。その様を見つつも自分の順番を待っていた。予想以上の暑さに思わず息を飲む。それは、見守っていた他の生徒たちも同じだろう。
　因みに、修はこっそり煙から逃れるためか風下に移動していた。
　まゆの次は２年生。トップバッターとなった十文字若菜も熱さに少々驚いたものの、真面目にお経を読んでいく。見守る生徒たちもまたどきどきしながら自分たちの順番を待つのであった。
　３人の２年生の次は１年生。次々にすすみ、いよいよ修の番に。彼はふぅ、と息をつき炎の前に座った。
（よし……）
　彼は大切な仲間の無病息災を願い、只管にお経を唱え始めた。元々あまり体力がなかった修だが、少しずつ鍛えた事によりだいぶ改善されてきていた。そのお陰か、護摩焚きも順調に進めることが出来た。
（さすがにちょっと辛いが、４月の頃だったらもっと辛かったかもしれないな）
　滝のように流れる汗もそのままに、願いを込めてお経を唱え続ける。終わった頃にはほほもかなり赤くなっていたものの、直ぐに風に当たればすぐに脳裏がすっきりとした。

　順番が来た所で、碧南はぐっ、と覚悟を決めた。炎の前に座るだけで熱さが肌を焼き、汗が額に浮かび始める。それでも顔を挙げ、早速お経を唱え始めた。あっというまに汗だくになり、それでも必死にお経を唱え続ける。
（熱いっ！　夏の暑さなんて目じゃないよこれっ！！）
　一見、真剣にストイックに修行に励んでいるように見えるが、実は早く終わらせたい一心だったりする。しかし、ふと、彼女は静天の言葉を思い出す。
（自分の中の煩悩を、仏様の力を借りて燃やすのも……なのよね）
　只管お経を唱え続けていると、いつの間にか交代の時間となった。炎の前から離れた途端、秋風が身体の包み込む。走りこんだ後のような心地になりながら、碧南はふぅ、と一息ついた。

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