悠久の時の彼方へ～オルレアンの少女｜リアクション

悠久の時の彼方へ～オルレアンの少女

Une.

　秋の日差しが優しく注ぐ寝子島にて。
　好奇心の赴くままに島を散歩していたクルジッカ・ヘルマゴルは、綺麗に色づいたイチョウに思わず見とれた瞬間、バナナの皮を踏んだ。
「あっ！」
　次の瞬間、クルジッカは無様に転んだ―――はずだった。
　空が回転して、一瞬目の前が白くなったかと思うと、いつの間にか舗装もされていない地面に座り込んでいた。
「あれ―――何があったんでしょう？」
　辺りを見回すクルジッカ。見ると、樹齢百年くらいはありそうな大木の下に、数人の人影が見えた。あんな木、寝子島にあったかな？

「もう一人、来てしまったようだね。時空のひずみも安定してきたし、多分、君が最後だ」
　人の群れの中にいた、灰色シャツ姿の見知らぬ少年が言う。よく分からないまま、クルジッカは大木の下にいる人々の側に近づいた。
「……？一体、ワタシはどこに？」
「う～ん、話を聞くと、困ったことになったみたいでねぇ」
　口を開いたのは猫島寝太郎だ。のんびりした口調のためか、あまり困った感じはしないが、本人は真面目だ。
「ここは1429年のフランス―――つまり、俺たちは中世ヨーロッパにタイムスリップした、というわけさ」
　同じく輪の中にいた、御剣刀が言葉を繋いだ。
「中世ヨーロッパ……？」
　クルジッカがきょとんとする。そんなこと言われても、いきなり信じられないよね―――と周囲が思った瞬間。
「ひゃっほーい！」
「わ、何すんだ！」
　目を輝かせたクルジッカは、思わず手近にいたフィーナ・シレンツィオに抱きついた。
「ファンタジーの本場、中世ヨーロッパに来ちゃうなんて！ワタシそういうの大好きなんです！」
　そう、クルジッカは子供の頃に読んだ本に出てきた魔法や妖精の話が大好きなのだ。
　クルジッカが落ち着いた頃、こほん、と輪の中心の謎めいた少年―――築地哲が咳払いをした。
「話を戻すが、今日フランス軍は、オルレアンを包囲するイングランド軍に戦いを挑み、救国の少女ジャンヌ・ダルクの活躍でこれを撃退することになっている。しかし、歴史を変えようとする悪意ある者によって、歴史が改変されようとしているんだ。僕には情報収集の力はあるが、戦闘能力はない。皆の力を貸して欲しい―――」
　哲は、ジャンヌ・ダルクに加勢する必要性と、フランス軍総司令官ジャン・ド・デュノワを説得する必要性について、手短に述べた。
「ふーん……」
　フィーナ・シレンツィオは腕組みをして険しい顔をする。
「時代が違うとは言え、自国と戦わないといけないなんて、ちょっと複雑な気分だぜ……」
　フィーナは英国出身、つまり母国であるイングランドと戦わねばならないのだ。
「酷な頼みなのは知っている―――だが、ここでイングランドが勝ったら、君の生まれた英国もなくなってしまう」
「わかってる。そんなの気にしてたら本当にやらなきゃならねぇこともやり逃しちまうからな」
　フィーナは哲の言葉に答える。彼女は、すぐ気持ちに折り合いをつけたようだった。
「気持ち、切り替えて行くぜ！」

「ほうっておけば俺たちの存在にも関わるんだろう」
　刀も厳しい表情で言った。
「俺は、ジャン・ド・デュノワの説得をして、援軍を引き出そう」

「勝たないと、帰れないんだよなぁ……」
　寝太郎は、ゆったりした口調のまま言う。
「今なら、無人島で殺し合いしろって言われた学生の気持ちが少しわかるかも。しかたない、人は殺したくないけど、できることはやる」

「君の話を聞くとだ。つまり、ジャンヌ・ダルクのもとで存分に暴れていいということだな？」
　鷹城空は青い目を鋭く光らせ、哲に向かって言った。
「そうなるね」
「よし―――戦闘で活躍し、歴史に私の名を刻んでみせる！」
「そう、その意気で頼む」
　哲は静かに笑った。

「難しいことはよくわからんが、歴史は変えさせねえ！」
　熱血少年らしい勇ましい言葉とともに立ち上がったのは、風雲児轟である。
「おい哲、武器を持って戦う代わりに、もう一つ、円形の扱いやすいサイズの盾をもらえねぇか？」
「ああ、構わないが、何に使うんだい？」
「それは後でわかるさ」

　ジャンヌ・ダルク、そしてオルレアンの街を救う決意表明をした面々を、築地哲は満足げに眺めた。
「諸君、協力に感謝する。皆には僕の方からもできる限りの力を貸すが―――ちょっとの間、僕は失礼する。情報を提供すべき相手が、まだ残っているからね」
　それきり、哲は霞のように、木陰の中に消えた。

このページにイラストを設定する

悠久の時の彼方へ～オルレアンの少女

シナリオ

シナリオデータ

シナリオスケジュール

参加キャラクター一覧