悠久の時の彼方へ～オルレアンの少女｜リアクション

悠久の時の彼方へ～オルレアンの少女

Onze.

「―――築地。見つけたぞ。話がある」
　逆巻天野は、築地哲を見つけて不機嫌そうに呼び止めた。人殺しを強制するとはどういう神経をしているのか、説教をするつもりなのだ。
「参ったね……君たちの倫理観は知っているが、僕にも任務というものがある」
　哲が答えた瞬間、割って入る声があった。
「その『任務』とやら、気になっているのだが」
「俺も、それについて聞きたかった。『あの人』とは一体？」
　八神修と、御剣刀が立っている。彼らも、騒動の黒幕を哲に聞こうとしていたのだ。
「『あの人』については、正直なところ謎も多い―――ただし、これは教えておこう。『あの人』はこの世界ではない、平行世界の人間だ。向こう側の世界で敗残者となったため、こちら側の歴史に干渉して、権力の空白を作り出して入り込もうとしている。それが、『あの人』の目的だ。話せることは、以上だ」
　それきり、３人が何を問いかけても、哲が口を開くことはなかった。

　日はとっぷりと暮れた。ジャンヌ・ダルクは、フランス軍の陣所近くを散歩していた。
「そこにいたんだね」
　声をかけられたジャンヌは振り返る。浮かない顔の灯斗南がいる。
「どうなさいました、何か悩み事でも？」
「そうじゃない。一言言いたいんだ。たとえ報われなくても、やらなきゃならないことがある。それをやり抜いてくれ」
　斗南がそれだけを伝えると、後ろから逆巻天野の声もした。
「僕からも言いたいことがある。ジャンヌ、泣きたいときは泣けばいい。大声で泣け。ただし、立ち止まるな―――君が選んだ道なのだから」
　意図がつかめず、不思議そうな顔をするジャンヌ。

「今後の苦難は神の国に至る試練だ。神は、常にお側にいらっしゃる……」
　いつの間にか、八神修も立っている。後ろには、黒依アリーセの姿も見えた。
「軽い気持ちで聞いて欲しいのだけれど―――神の声に従順なだけでなく、ある程度目的を達したら自分のことも考えてみて欲しいの。例えば、フランス国内の問題を解決して回るような。あるいは、髪を伸ばして家庭を持つような……そんな人生もあるのでは？一度心に問いかけてみて欲しいわ」

　皆が去ったあと、ジャンヌはそれぞれが残した不思議なメッセージの意味を思案していた。さっきの轟も、斗南、天野、修、アリーセ、皆は何のつもりで……？
「ジャンヌさん。どうして皆が貴女のことを気にかけるか、教えるよ」
　次に現れたのは、北原みゆきだった。
「神の名を騙るペテン師らが人々を苦しめるには飽き足らず、神の啓示をうけた人間を罰するなんてあんまりだと思う。だから、本当のことを伝えるね。貴女は―――祖国に見捨てられ、異端として処刑される運命にある」
　沈黙が訪れた。
「まさか―――神に導かれている私が、異端……？」
「こんな残酷なこと伝えたくない。でも貴女には、生きて人々を導く必要があるから」
　信じがたい予言に呆然とするジャンヌを気にかけながらも、みゆきは立ち去った―――

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