悠久の時の彼方へ～オルレアンの少女｜リアクション

悠久の時の彼方へ～オルレアンの少女

「長弓兵は厄介と聞きます……敵の包囲網に入り込まないようにしないと」
　天動記士郎は、ジャンヌの動向に気を配りつつ考える。ジャンヌの指揮能力なら、包囲されても突破できるだろうが……。
　自らも槍を振るい、イングランドの騎兵を馬からふるい落とす。槍を扱うのはもちろん初めてだ。他の槍兵の動きを参考にし、体力と腕力で乗り切る。相手も剣や槍を繰り出してくるが、上手くやり過ごして自分も槍を突き出す。また一人、敵兵を落馬させた。一人でも多く、敵を無力化しないと。
「力業で向かうしかありませんね」
　記士郎は、息を切らしながらも前進を続けた。ジャンヌも軍旗を振り、疲労の見え始めた兵士を鼓舞している。
　その時だった。

　一本の流れ矢が、ジャンヌをかすめる瞬間が記士郎の目に映った。次の瞬間、ジャンヌは旗を取り落として落馬する。
「ジャンヌさん！」
　記士郎は、とっさに騎手を失った敵方の馬の手綱をつかみ、ジャンヌの元に駆け寄った。
「大丈夫です。首に浅手を負っただけで、まだ戦えます」
「良かった……でも、とにかく乗ってください」
　記士郎は、馬を失ったジャンヌに代わりの馬をあてがう。ジャンヌには、なんとしても生き残ってもらいたいのだ。

　ジャンヌが矢傷を受けたとき、ル・バスクは先だって八神修に言われた言葉を思い出した。
「聖女が赤い花を咲かせたとき、君が軍旗を掲げろ」
　命に別状はなさそうだが、隊長の負傷は士気に大きく影響する。つまり、あの言葉は「ジャンヌが負傷したとき、軍旗を掲げて兵士を鼓舞しろ」ということだったのだ。ル・バスクは迷わず駆け寄り、ジャンヌの持っていた軍旗を掲げた。
「進め！フランス軍は必ず勝つ！」
　いったん動揺しかけたフランス兵は、ル・バスクの機転のおかげで立ち直る。

「その通り、フランスは勝つべ！」
　その時、前線に鈴野海斗の声が響き渡った。
「ラ・イル、見参！皆の者、援軍が到達したぞ！一気にイングランド軍を駆逐せよ！」
　フランス軍主力が、ついにジャンヌの部隊に追いついたのだ。
　奇襲作戦やろっこんでの幻惑でほころびかけていたものの、まだ数で押そうとしていたイングランド軍は、ついに退却を始めた。
　手早く止血を済ませたジャンヌが叫ぶ。
「神様は、ついに私たちに微笑まれました！オルレアンの民のために、進むのです！」
　フランス側のすべての兵士が、雄叫びをあげてジャンヌの言葉に答えた。

　戦いの趨勢は、ここに決したのである。