悠久の時の彼方へ～オルレアンの少女｜リアクション

悠久の時の彼方へ～オルレアンの少女

Douze.

「さて、今回も無事歴史を大きく変えずにすんだ。諸君の協力に感謝する」
　築地哲は、今回巻き込まれた面々を集め、帰還させる準備を始めていた。
「まもなく、元通りの時代に戻れる。諸君の力添えがなければ歴史は変わっていたところだった―――だが、一点言わなければならないことがある」
　哲が言葉を切る。
「残念ながら、諸君の中に、能動的に歴史を変えようと暗躍した者がいる。どういうつもりだい……歴史が変わったら、自分自身も消えかねないのに」
　その口調は静かだったが、刺々しいものが感じられた。
　ばれていたか―――ジャンヌ救出に動いていた面々はどきりとした。
「悪いが、今回の君たちの痕跡は完全に消させてもらおう。そうしないと―――」
「待って」
　哲の言葉を制したのは、クルジッカ・ヘルマゴルだった。
「ワタシたちの認識している歴史は、本当に『正しい歴史』なのですか？誰かが改ざんした歴史を正しいと思い込んでるのではないですか？その点をはっきりさせたいです」
「……」
　哲は答えられなかった。
「正しい歴史、か……。仮に未来人が過去を変えたとして、それは間違った歴史なのか……」
　さらに、北原みゆきがなんとなしに言う。
「たまに思うんだ。最悪の選択肢を選び続けた結果、今の世界があるんじゃないかって。ここで過去を守っても、待ち受けるのは、きっと最悪の終わり方。なら、いっそここで変えてしまうのもいいかもしれない」
　重苦しい沈黙が続いた。数分だったか、ほんの数秒だったか。
「諸君。今から現代に戻ってもらうが」
　哲が顔を上げる。
「歴史を、人一人の運命を変えることの重みはどれだけのものか。一つ、君たちの覚悟の程を見てみたくなった」
　まさか―――その場にいる全員が息を飲んだ。
「希望する人には、後ほど1431年にご招待しよう―――ジャンヌ・ダルク処刑の年だ。歴史を変えるという行為の重みに耐えられる者だけが、来るといい。―――では、またどこかで……」
　哲の言葉が終わらないうちに、一同の意識は急速に薄れていった―――

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