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◆第五章「暗躍する者、狂気の行く先」
~村・入口~
村の入り口。木でできた簡素な門は気の塀に繋がっており、村の周囲を囲っている。
静かな風が入口に立つ少年の髪を撫でた。少年は刀を腰に差し、目を閉じて瞑想している。
正面に明らかなる敵意を感じて彼はゆっくりと目を開けた。
「……来たか」
森の方から歩いてくる影。それはこの世のものとは思えない寒気を漂わせながら
こちらへと近づいてきている。心の奥底から凍り付いてしまうかのようなそんな、冷たい冷気である。
「っ……だが、やるしかない。あの夢が、彼を止めて欲しいというのなら……」
震えてすくみ上がりそうになる身体を気合で一喝し、少年――――
御剣 刀
は影の方へと歩む。
一歩、また一歩と進む度……雪原にでも足を踏み入れているかのように思える寒さを感じた。
(これが……彼の放つ妖気だとでもいうのか? とても寒い……冷え切っている。
なら届けようじゃないか。月華の想いを……そして思いだしてくれ、大切な人との温かな日々を。
雪の心に宿っていたはずの……温もりを)
決心した表情で御剣は……迫る影――雪と対峙した。
両者とも無言。しばしそのまま時が流れた。
先に沈黙を破ったのは御剣であった。
彼は懐からおにぎりを取り出して雪の方に差しだす。
「忘れたのか? 大切な人……月華と食べたおにぎりの味を」
「……ウガアアアアアア!!」
雪は苦い表情をしながら踏み込むと、御剣に向かって爪を斬り上げる様に振るう。
地面を削り、鋭い爪が御剣へと迫った。
その瞬間、撃鉄が落ちるイメージを浮かべ御剣は自身を高速化する。
雪の二倍の速度で動き、彼の爪を素手で受け流す。
必死に説得する御剣の後ろに雪は少女の影を見る。
懐かしい面影を持った少女は語りかける。
(ゆ……き、だめ……よ。ちゃ――と――きゃ)
「グウオオオオオオオオ!!」
少女の影を振り払うかのように、雪は滅茶苦茶に爪を振るって宙を薙ぐ。
雪と対峙している御剣は腰に刀を差していたがそれを抜こうとはしない。
抜いてしまえば敵対行為になり、いらぬ誤解を招きかねない。
そうなれば説得する事は不可能となるだろう。
何度も放たれる雪の斬撃をその都度加速し、御剣は全ての攻撃を受け流す。
そして彼は差し出し続けた。
不格好だが、想いの詰まった月華のおにぎりを。
次第に雪の目が潤んでいき、ついには涙が一筋頬を伝った。
「わざわざ討伐される危険を押してまでやっていることだ。お前にとっては大切な事なんだろう。
でもな、お前の中の月華を殺してまでやらなくちゃいけない事か?
……お前は、お前の中に生きる月華を……殺してしまうつもりなのか……?」
俯き膝をついて雪は動かない。彼の眼には大粒の涙が溢れ、地面を濡らす。
御剣は刀の柄に手をかけ、語りかけた。
「お前がもしも……お前の中の月華と共に死ぬことを選ぶのなら……殺してやるよ、この手でな。
だが、生きるという道を選ぶのならば俺はお前に手を伸ばす。静かに暮らせるように、協力する」
御剣は手に月華のおにぎりを乗せ、雪に差しだす。
涙に濡れた顔を上げるとそこには泣きじゃくる少年の顔があった。御剣はそれを見て、
ああ、やっと本当の雪に会えた……そう感じていた。
涙を流しながら雪はそのおにぎりに手を伸ばす。
その瞬間、聞こえたのは叫び声。
「雪ッッ!! 逃げろーーッッ!!」
草むらから飛び出してきたのは八神であった。その表情は険しく、一刻の猶予もない事をうかがわせた。
直後に小さな風切音。何か高速で飛来した物体がおにぎりを貫いてばらばらに吹き飛ばした。
「あ、あ……」
「外したかねえ……どうも致命傷を与えたようには見えない……もう一度放てっ!」
骨削辛抱強く準備をし、策を巡らせ願いが成就するその時を待っていたのである。
木々の合間に隠れていた数名の男性達が骨削の合図で矢を放つ。
呆然とする雪に覆い被さる様に八神が身を挺して彼を守った。
背中に本来は防炎用として鴻から渡されていた七竈の木材が仕込んであるとはいえ、
衝撃は完全には殺せず、痛みも少なくはない。
「大丈夫だ、君は……俺達が守るから……」
雪を抱きしめる様に守る八神の意識が急に遠くなる。
――。
――――。
――――――。
八神が目を開くと……そこは真っ白な世界だった。
世界を支配するのは白。それ以外の色はない。
目の前に狐の妖怪――――雪が立っている。
「なぜ、お前は……俺を助けた?」
雪は問いかける。その眼には狂気の光はない。
八神は静かに答える。
「頼まれたからだ……雪を助けてやって欲しいと」
「何もかもがもう遅い……俺は人を手にかけすぎた……」
「遅くなんてないっ! 月華は孤児で、この村に身寄りもない。
そんな忘れられていくだけの彼女の事をしっかりと覚えておいてやれるのは……雪、君だけだ」
八神は心から訴える。
月華の想いを伝えられる時間は恐らくこのタイミングしかない。
「俺にも好きな人がいるからわかるんだ……きっと俺だってこうなってしまうかもしれないって……」
「…………」
無言のまま、雪は八神を見つめている。
八神は気にせずに言葉を続けた。
「でも、その人の事を好きだからこそ、その人が悲しむ様な事は……したくない。
雪だって……そうだったんじゃないのか。月華のおかげで村で少しの間とはいえ、暮らして……
笑って……楽しんで……そういう毎日だっていいもんだって思う様になったんじゃないのか?」
雪の脳裏に村の人達と過ごした日々がよぎる。
畑仕事をしながら汗にまみれ、仕事終わりの夕飯がおいしかった事。
夜には急に虫が入ってきてその退治にみんなで大慌てした事。
朝には寝ぼけ眼の状態でふらふらと起こしに来た月華がとてもかわいかった事。
そしてそのまま何かしらのドジを踏む月華をみんなで大笑いした事。
雪の目に涙が溜まる。
それはもう戻れない日々への望郷。
「……もう遅い、どうあっても……宿る狂気の炎は消せない……」
八神に背を向け、雪は歩き出す。八神は手を伸ばすが雪の足元から炎が吹き出し、壁となって八神を阻む。
彼の手は雪に届くことなく、雪は紅い炎に巻きつかれ消失していく。
消えながら振り向くと、寂しそうな表情で呟いた。
「もう少し早く……君と出会っていれば……な」
「待ってくれ、まだ……話は終わって――――」
伸ばした手は雪の尻尾に触れて八神の手の平に数束の毛を残した。
世界は赤の色に支配され、地獄の業火となって吹き荒れる。
弾かれる様にして八神の意識は現実世界へと引き戻された。
――八神の身体から抜け出る様にして雪は憑依を解く。
その眼に宿るは紅き狂気の炎。
もう一切の迷いはない。そこに容赦や情けはなく、あるのはただ確実な死のみ。
ゆっくりと歩きながら紫の炎を顕現させる。
腕を一振りすると炎が地面を薙ぎ払い、そばにあった木箱や草を一瞬で灰に変えた。
村の方へ歩いていく彼の背中を見ながら八神は悔しそうに地面を握る。手が土まみれになり汚れた。
「くそ、あと少しで手が届いたのに……届いたのに……ッッ!」
決して届かない距離ではなかった。あとほんの少しで手を握れる距離だった。
だが、失敗した。もう手は届かない。雪は、遥か遠くにいる。
「後は任せて欲しい。雪は僕が止めて見せる。いや、止めなくちゃ……私達が……!」
八神の目に彼……
逆巻 天野
と月華が重なっている様に見えた。
最初は幻かと思ったのだが、そうではないらしい。
喋る声にも月華の声が重なり、声が二重に聞こえる。
天野は無意識なのかもしれないが一人称が僕ではなく、私達になる事があるようだ。
月華の想いを受け、その運び手となっている天野になら……そう思い八神は天野に
雪の説得の役目を託す。
「わかった、後は任せた。必ず雪を――」
「当たり前だよ。必ず彼を止めてみせる。これ以上苦しませちゃ、いけないんだ」
完全に狂気に飲まれた雪を前に、御剣は刀を引き抜く。中段に構えたその構えに隙はない。
右や左だけでなく上下にも揺さぶられるその攻撃を紙一重の打ち合いで御剣は弾く。
「雪ッ! おい、雪ッ! くそっ! 聞く耳持たずか……!
ならお前が二度月華を殺さないように、そうなってしまう前に……俺が殺そう」
自身を加速させ、御剣は雪が動くよりも早く攻撃動作に入るが、雪はそれも予測していたのか
放たれる御剣の斬撃を狐火の壁で防いでしまう。
一度、また一度と打ち合う度に、御剣の体力が落ちていく。
気を抜けば刀を弾き飛ばされてしまいそうだった。
不意に屈んだ雪は炎を伴いながら腰を捻って掌底を放つ。
至近距離からの予測していなかった攻撃に対応が遅れ、御剣は掌底を真面に受けた。
そのまま回し蹴りに絡め取られ、地面へと叩き伏せられた。
「がはぁっ! ぐ……う……」
敵わない。
本気となった雪と御剣の間には決定的な実力の差がある。
テクニックでそれを埋めようにもどうにも埋められない……。
完膚なきまでの敗北。
歯を食いしばりながら意識を失うまいと御剣は身体を起こそうとする。
が、動かない。ダメージを受けた身体は限界を超え、微動だにしない。
「ここまで、か……月華、すまな――――」
「大丈夫、あとは任せて……」
月華にそう言われたような気がして、御剣は顔を上げる。
そこには決意と覚悟を決めた表情の天野が立っていた。
御剣もまた、八神と同じように天野に月華が重なって見えた。
それは真実なのか、はたまた幻か。
しかしそんなことはどうでもいい。
今確かなのは、雪を止められるとすれば……それは、月華の想いを知った天野だけなのだから。
「おい、流石にそろそろやらないとやばいだろ」
「そうだな、これ以上進まれるとそこにあるのは村だものな」
「さ、みんなでいけば勝てないわけはない!」
村人達がそれぞれ持った武器を握り締め、破壊の限りを尽くし、説得しようとしている者達を
完膚なきまでに叩き潰している月華を殺そうと向かおうとした時、目の前に少女が躍り出る。
少女は
響 タルト
であった。
タルトは手を大きく広げ彼ら村人を雪の元には行かせまいと立ちはだかる。
「嬢ちゃん、なんの真似だい……そこをどいてくれ」
「どかないよ。だってその武器は雪に使おうとしてるんでしょ、だったらどかない!
少しでも雪と一緒に暮らしてたんでしょ、だったら雪が悪い奴じゃないって事わかってるはず!
今の雪は悲しくて、悲しくて……どうしようもなくて暴れてるだけなんだよ!」
しばらく村人は黙った後、ぽつり、ぽつりと話し始める。
「あいつ、畑仕事を手伝った時……物事の呑み込みが早くてな、教えるのが楽しかった……」
「余った料理を持っていった時だって、見てくれはかなり悪い残り物だろうに、
笑顔で食べてくれたっけ……」
「木の上にひっかかった洗濯物をさっと昇って取ってくれたりもしたねえ」
タルトは彼らの顔をそれぞれ見詰めて口を開く。
「そうやって思いだして……それでもなお、雪を殺しに行けるの……?」
「……いや、むりだ……できねえよ、だってよ、村の一員として同じ釜の飯だって
食ってたんだぜ……アイツの笑顔がちらついて……そんな、殺せるわけ、ねえ……よ……」
幸せだった日々を思いだし、村人達は武器を足元に落とした。
彼らには最初から殺すなんて選択肢は取れなかったのかもしれない。
自らを脅かす存在は……ついこの間まで笑い合っていた隣人だったのだから。
村はずれの平原の空を火球がいくつも飛んでは爆ぜた。
紫の火球が跳ねるように動き、着物姿の青年――――
夏神 零
を狙う。
零は地面に手をつき、ついた手を軸にして回転、火球をうまく躱す。
そのままもう一方の手を地面につけ、両手で身体を空中へと押し上げた。
空中の零に雪は火球を三発放つ。時間差で飛来するそれを避けることは難しいだろうと思えたが――
「まだまだ……やられるわけにはいかんのでござるっ!」
突き出ている木の枝を掴むと鉄棒の要領で一回転、勢いを付けてそのまま次の枝へ。
次々放たれる狐火を回避しつつ、零は反撃の機会を窺った。
(あれだけの高速連射……そう長い時間は撃ち続けられないはず。となれば息切れが来るのは常道。
その暇を見逃さずに攻めるのが吉でござろう)
ふと、雪の火球の連射が止んだ。それは一息分ともいえる短い刹那の時間であったが、
零が反撃するには十分すぎる時間である。彼は意を決して、木の枝から一際大きく勢いを付けて飛んだ。
空中では回避運動は取りづらい。なぜなら体の向きを変える推進の力を伝える物が人には備え付けられて
いないからだ。空を飛ぶ飛行機がなぜ動きが自在になるかと言えば、推進装置であるエンジンと翼を
持っているからとも言える。
身を翻し迫る火球を舞を紙一重で零は躱した。
風を孕んで着物がふわりふわりとはためく。
流れる様な動作で攻撃を躱し、くるくると回るその姿は舞を踊る巫女のようであった。
「拙者の渾身の一撃っ! 受けてみるでござるっ!」
素早く振られた手刀。直後、零に迫る火球が両断され爆ぜた。
腕を十時に交差させながら火の粉から身を守ると、零は空中から雪を急襲する。
再び素早く振られた手刀。その動作は舞の一環に見え、常人であれば攻撃したようには感じないだろう。
だが、そこは妖怪。雪は咄嗟に攻撃を察知し、側面へ倒れ込む様にして放たれた攻撃を回避する。
着地した零は雪を見据えた。
雪の三尾ある内の一尾の表面が裂け、体毛が赤く血に染まっている。
流血が止まっていない事から、かなり深く切れたようであった。
(切断には至らなかったか。しかしあれだけの深手……さっきの様に妖力を完全発揮させることは
できなくなったでござろう。これで此方側にも勝機が巡ってきたでござる!)
「ウガアアアアアアアアアオオオオウウウウウアアアアアアアアアアアアーーーーッッ!!」
「ーーッ!?」
悲鳴とも断末魔の叫びともとれる雄叫びを雪が放つ。
空気が震え、地面が振動し、小さな草木が耐えられずに土から抜けて空へと吹き飛んだ。
上から押さえつけられるような感覚と、前方から絶え間なく放たれる衝撃波。
それにさらされた零は木に打ちつけられ、身動き一つとれなくなった。
(なんという波動っ! これで、は、息……が……でき、な……)
彼の視線に信じられない光景が映る。
そこには衝撃波を受けながらもゆっくりと雪に向かって歩く天野の姿があったのである。
波動は彼の身を斬り裂くが構わずに天野は歩き続ける。
安らかな表情のまま天野は雪へと歩みを進めた。
届けなければならない、大切な言葉を。
「ウアアアッ!! ガアアアッガアーーーッ!!」」
「楽しいか? 村人と同じ……憎むべき相手と同じ殺戮をして」
次々放たれる衝撃波が天野に向かっては身を斬り裂き血飛沫を飛ばした。
もう既に雪の攻撃は攻撃とは呼べないものとなっている。
だだっこがくるなと腕を振っているかのように。
そして雪の攻撃は天野に通じなくなった。
なせなら――――彼女がきたからである、雪の大切な人が天野に想いを託し、
彼の事を守っていたのであった。
「どうか、これ以上……貴方が憎んだ相手と同じ道を……歩まないでほしい」
天野は言葉を続ける。
懐から櫛を取り出すと、それを雪に差しだす様に見せた。
それは月華が愛用していた櫛である。
櫛が輝き、その光が人の形を取り始めた。
光はある人物の姿となった。
その姿は月華……雪の愛した彼女の姿であった。
(彼女の……月華の想いを届ける事。それがきっと彼を元に戻す為に必要な事。
きっと彼が忘れた日々の事も、優しい気持ちも、彼女が思い出させてくれると願うよ)
「ウウウ……アアアアああああああああっ!!!!」
爪を振り被って接近、斬撃を放つ雪を月華は優しい表情のまま抱き留める。
月華は暴れる彼を強く抱きしめた。
そして……その頭を撫でる。
優しく。
愛おしく。
ゆっくりと……撫でる。
「ごめんね、辛かったよね……ひとりにさせちゃって。
怖かったよね……どうにもならない自分自身が。
でも、もう大丈夫……これからは、ずっと一緒だから……ね、雪」
狂気に染まっていた雪の瞳が……表情が正常な光を取り戻していく。
ゆっくりと雪が月華を抱きしめる。触れられずとも思いは伝わるのだ。
「ああ、う……あ…………げ、か……月……華……月華」
「うん、ここにいるよ。大丈夫……みんなのおかげで戻ってこれたの」
「ごめん! 俺は……俺はっ! 取り返しのつかない事して……村の人にも、酷い事を……!」
笑顔のまま月華は雪の額を小突いた。
不意の打撃に雪は目を丸くしてきょとんっとした表情をしている。
「ふあっ!? えっ?」
「だーめ、そういうとこが雪のダメなとこだよ。周りがすぐ見えなくなって、
どんどん悪い方に考えちゃう。確かに酷い事しちゃったし、償っても償いきれないかもしれない。
でもね、この村に私達がしてあげられる事って……きっとまだあると思うんだ」
ほら……と、促すとそこには手を振る大勢の村人の姿。
心配そうな顔を見せ、走り寄って来る者もいた。
「雪! すまねえ、俺達はお前を追い詰めていたとは知らず……くう、自分が情けねえ!」
「ああ、尻尾真っ赤じゃないか! きっと深く切っちゃったんだねぇ! 人の薬が効くかは
わからないけど手当てしてあげるよ、こっちへおいで!」
村人にあれよあれよというまに囲まれ、雪は驚きの表情を隠せずにいた。
その様子を見て、月華は安心したように笑う。
「ほらね、みんなが雪が帰ってくるのを待ってたんだよ」
「うん……ありがとう」
「……おかえり、雪」
「……うんっ! ただいまっ!」
事態が収束したのを見て、天野は思った。
(これからは……貴方の狐火が人と妖をつなぐ悲劇を繰り返さない為の灯となります様に)
ほっとしたのか天野の身体を感じた事もないような疲労感が襲い、立っている事すらできなくなる。
膝を尽きそうになるが、ぐっと堪えて踏み止まって二人を見る天野。
幸せそうではあるが、肉体を持たず雪に触れることができない月華の寂しそうな表情に気づき、
彼は決心した。あの人の為にできる限りの事はしようと。
例えそれで命の危険に晒されようとも……あの二人には笑顔で笑っていてほしいと。
限界をとうに越えている身体を奮い立たせ、天野は口を開いた。
「雪、少し力を貸してくれ……」
「それはどういう……?」
「この櫛には……月華の想いの残滓が残ってる。君の力とこの櫛に残る残滓……それを合わせれば
月華の肉体だって……何とかなるかもしれない」
「そんなことは流石に――――いや、待て。妖力と残滓を合わせれば……!」
「考えるよりも善は急げだ。残滓も時間で消えてしまうだろうから」
目をつぶる雪と天野の間に月華が入って二人と手を繋ぐ。
月華の右手は雪と。
月華の左手は天野と。
そしてこの世界に飛ばされてきた者達と村人達が三人を円状に囲んだ。
雪は静かに口を開く。
「我は願う。今のこの場の者達の想いを糧に、我が妖力を用いて器を作らん。
器は形。血と肉を持つ幽体。我らの記憶」
言葉に合わせ、不思議な紋様が足元の地面にその場の全員を包む様な形で顕現する。
青白く光っていたそれから雷撃が放たれ、天野と雪を襲った。
二人は歯を食いしばって痛みに耐える。
雷撃が二人を伝って月華に注がれると彼女の身体に色が付き、次第にその姿がはっきりとしてきた。
「注がれし想いよ、今一つとなりて……っ!
ネガイの成就を!!」
その瞬間、爆発が巻き起こった。妖力を伴った爆発はその場の全員を吹き飛ばす。
激しい轟音と暴風が止むまで数分の時を要した。
辺りに静けさが戻った時、一同は天野と雪の姿を確認し安堵する。
二人は月華の膝の上で仲良く寝息を立てているのであった。
優しく二人の頭を撫でる月華の頭には狐の耳。お尻からは狐の尻尾が一本生えていた。
代わりに雪の尾が三尾から二尾へと変わっている。
月華の周りに浮遊する青白い鬼火が彼女は生者ではなく、死者であることを告げていた。
妖怪化しても生き返る事はできない。これは変わらぬコトワリ。
だが、妖力を得た彼女は幽霊でありながら、得た妖力によって現世に触れられるようになった。
肉体が少々冷たい事や、たまに透き通る事を除けば日常生活は何不自由なく過ごせるだろう。
「ふふっ……ありがとう、二人とも」
月華の膝の上で眠る二人を中心に優しい風の流れる空間が辺りに広がっていくのであった。
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SF・ファンタジー
バトル
動物・自然
定員
20人
参加キャラクター数
18人
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シナリオガイド公開日
2015年03月30日
参加申し込みの期限
2015年04月06日 11時00分
アクション投稿の期限
2015年04月06日 11時00分
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