ある夜……不可思議な夢……それは、新たなネガイの始まり。
紡ぎだす未来は悲しみに沈んだ不幸か、それとも笑顔の溢れる幸福か。
もう既に、ネガイは――――始まっている。
その夢は、誰かの目線だろうか。
暗闇の中に誰かが立っている……目を凝らしてもその姿は、はっきりとしない。
次第に目が慣れてくるとそれが着物を着た男の後姿であることがわかる。
それもただの『人間』の男ではない。なぜなら、彼には確実に『人間』と違う所があったからである。
尻のあたりから伸びる三本の尻尾は艶やかな毛並みでその様子は狐の尻尾を連想させた。
頭には毛に覆われた獣の耳が生え、感情に呼応するのかしないのか、時たまぴくぴく動いている。
彼はゆっくりと歩きだす。その周囲には四角いテレビの画面の様なものがいくつも浮かんでいる。
(あなたは……誰?)
画面の中の女性が語りかける。その表情は怯えているような、驚いたような表情だ。
歩く彼は答える。その口調はとても穏やかで……静かである。
画面の中の彼と同じように、彼は口を動かし、言葉を発し、画面の中の少女に答えた。
「僕は……。妖怪、狐の妖怪だ――――君の、友達……」
友達、その言葉には悲しみが漂う。
懐かしむ様な、もう戻れない場所を思い浮かべている様な……そんな雰囲気である。
(ねえ、作ってみたのっ! 初めてなのよ、意外と難しいのね。おにぎりを握るって)
満面の笑みで彼に笑いかける女性。彼女の笑みは全てを包んでしまう様な優しさに満ちている。
それは彼の安らぎ。彼にとって世界に一つの光。初めて知った闇を照らす、道標。
「そうだね、君のおにぎりはいつもぶかっこうだ。持ったらすぐ崩れるし、味もばらばら
……でも――――」
静かに語る彼の口元が少しだけ緩む。微かに笑う。
「――――今まで口にしたどんな料理よりも、美味しい」
歩く彼の前には道はない。ただただ、暗い道があるだけ。
光のない、道標のない、暗い道。
何処を歩いているのかさえ、見当もつかない……そんな道。
画面の中の少女が、彼に寄り添う。安心し心許した相手にだけ見せる表情。
彼もまた少女を抱き寄せ、強く、深く抱き締める。
(あったかいね……ずっとこうしてたいな……このまま、ずっと)
彼は立ち止まり、静かに息を吐く。
「ああ、そうだ……ずっとこうして――――――――――――――――いたかった」
彼の足元から小さな炎が発生する。それは瞬く間に周囲に広がり、辺りを燃やし尽くした。
歩いてきた道も。
彼女の写る画面も。
そして彼自身も炎に包んでいく。
フラッシュバックして次々と映る光景は、凄惨な殺人現場。
血だまりの中に傷だらけの少女が横たわっている。
無数の刀傷と流れでた血が、彼女の生命活動が停止しているのを告げていた。
(人間を傷つけたらだめだよ)
頭に響くはもう聞こえるはずのない彼女の声。
それは二人が共にいる為に交わした大切な約束。
破ってはいけない二人だけの秘密。
歯を食いしばり、彼は拳が血が出るほどに握る。
「ごめん、約束……守れない」
直後に聞こえたのは悲鳴。男達の断末魔――――。
――――消えたフラッシュバックの中、立ち止まった彼は自分の手を見る。
彼の手は紅い。血で染まって、真っ赤に彩られていた。
ひきつったように彼は笑う。
「でも、無理なんだよ……もう……無理なんだ。
あの過去には戻れない、君の笑顔は戻らない」
彼が不意に手を伸ばす。そこには最後に残った笑顔の彼女が写る画面。
手が届くよりも前に、それは炎でひしゃげて歪み、燃え尽きてしまった。
「ダメなんだ、思いだせないんだよ、もう……君の名前すら。
ワラッタ、笑顔モ……オモイダセナイ。アア、溶けていくキミハ……」
狂気に包まれた彼の瞳が何もない、先程まで画面の中の少女がいた場所を見つめ
口が静かに動いた。
「アナタハ……ダレ?」
――目覚めたあなたは見知らぬ家の中にいた。そこは映画で見る様な時代劇のセットの様な場所。
ただし、はなに伝わる土の匂いや、家の隙間から届く草木の香りを乗せた風が自分のいた時代とは
違うのだという事を告げている。
そうか、またなのかと。前触れもなく見知らぬ時代に放り込まれるのは初めてでないにしろ、
何の前触れもなくやるのはやめて頂きたいとあなたは思った。
そこに男がやってくる。その男は見る限り村の人なのだろう。
着物の端が切れ、手や足には土汚れが目立った。
しかし彼はなぜか酷く怯えた様な表情をしている。
聞くと、暴れまわる狐の妖怪に村の人が次々と焼き殺され、困り果てた彼は
あなたに妖怪退治を依頼したのだという。
ああ、今回わたしはそういう立ち位置なのかと自分を納得させ、あなたは動きだす。
窓代わりに開いている穴から遠くの家の屋根に誰かが立って此方を見ているのが見えた。
それは夢で見た彼に似ていたが、少し髪の長さや着物の傷の具合が違っている。
もう一度よく見ようと手で目を拭ってから見るが、もうそこに彼の姿はなかった。
炎を使う狐の妖怪……夢で見た彼との符号。
何ができるのかはまだわからないが、どのみち何とかしなければ元の世界へ
いつも通り帰る事が出来ないのだ。
覚悟を決め、あなたは部屋を後にし外へと向かった。
お久しぶりの方もそうでない方もこんにちわ。ウケッキです。
今回お送りするお話は、今よりも昔のお話。
あなたの境遇は武士。能力的な変化はないですが、腰には刀を差しています。
懐にはお弁当なのか、塩むすびが包みに包まれて入っています。
それ以外の現代のアイテムは何一つ持って来れていないようです。
お話は皆様の選んだ選択で変化を見せていきます。
村の人からお話を聞くもよし、退治する為に気合を入れるもよし、
少女と妖怪について調べるもよしです。
其々が選んだ道は小さな流れとなり、やがては大きな流れを作るでしょう。
その先にあるのは幸せな未来か、それとも……。
皆様の選択を楽しみに待っております。
■登場人物
ゆき
:狐の妖怪。尻尾は三本。かつて村娘の月華と交流を持ち、村の傍に隠れ住んでいた。
故郷の跡目を継ぐのが嫌で外の世界へ飛び出した好奇心旺盛な妖怪。
人間というものを知らず、興味深々で月華に色んなことを教わっていた。
月華(げっか)
:過去にゆきに出会った村娘。最初は怯えていたが、交流を続けるうちに
ゆきの優しさに触れて次第に惹かれていくが想いを告げる前に
村の者によって殺されてしまう。
※マスターページにイラストを乗せる予定です。本編執筆中になるかもしれませんし、
それよりも早いかもしれません。勿論、私が描くわけじゃありませんよ。
また、そのイラストを見ているかいないかでアクションに優劣がつくものでは
ありませんので気が向いた方は見て頂けると幸いです。
予定としましては、本編公開前までに一枚、公開後に一枚となると思われます。