寝子島ナイトマーケット｜リアクション

寝子島ナイトマーケット

☆掘り出し物を探して

「ナイトマーケットですか。何か掘り出し物があるかもしれません」
　そう思った白浜渚は、実はかなりの人見知りだった。
「ひ、人込みは避けたいですけど行って見ましょう」
　だが好奇心が勝り、勇気を出して出かけることにした。
　普段よりも少しだけ着飾った洋服を選ぶ。
「冷えて来ましたし、ショールも羽織って行きましょう」
　かなりの美貌を持つ渚だが、眼鏡と前髪で容姿がわかり難い。
　彼女に注目する者はおそらくいないだろう。
　
　マーケットで小物を見て回っていた渚は、綺麗なお店を見つけた。
　全体が白い布で覆われ、小さな走馬灯が灯されている。
　シルエットの絵柄は森と動物だ。
　様々なペンダントがＬＥＤライトでスポット的に照らされていた。
『星座を見上げる童話キャラのペンダント』と書かれている。
「あの……手にとって見ていいですか」
　遠慮がちに聞くと、サイドテールの店員さん……アリーセは、にっこり微笑んだ。
「どうぞ。ゆっくりご覧になってください。マイナーな作品や星座で在庫がなくても、２時間ほどお時間をいただければこの場で作ります」
　レジン溶液、ペンダント用ミール皿、蓄光顔料、切り絵用の紙、レジン固化用ＵＶライトなど、必要な道具は持参している。
　ただ売るのではなく、お客さまに納得していただけるものを、というアクセ作り修行中のアリーセのこだわりである。
　渚は手に取ってじっくりと見ていった。
　童話キャラはシルエットで、切り絵の様なイメージだ。
　明るい所では薄いブルー背景の切り絵ペンダントだが、暗い所では背景が暗めのブルーに光り、オレンジの星座が明るく輝く。
　キャラのシルエットは背景が輝く事で、クッキリと浮かび上がる。
「それは、乙女座を見上げる人魚姫ですね」
　渚の手に取ったペンダントを見て、アリーセが説明する。
「人魚姫……」
　惹かれながらも、渚は冷静に考える。
（予算は限られてますし、買えても２～３点まででしょうか？）　
「人魚姫はお好きですか？」
　アリーセが尋ねる。
（星座と童話の組合せから、物語やその人の想いが見えたら話を聞けたら）
　そんなことを思っていたのだ。
「ええ、ちょっとセイレーンを思い出しました……」
　そう言いつつ、もうちょっと考えたい気がした。
（即決せずに他のお店も一通り回って納得いく物を買いましょう）
「すみません、他のお店も回ってから決めますね」
　小声で言った渚に、アリーセは笑みを崩さない。
「はい、お待ちしてます」
（出来れば机の上に置ける小物がほしいですし）
　そう思いつつ渚は、人魚のペンダントを心に焼きつけながら店を後にした。

「あ、いたいたアリーセちゃん！　これ、差し入れ。ソーダブレッドのりんご入とホットミルクティー」
　アリーセと同じ軽音部の陽太が声をかけてきた。
「ありがとうございます。段々夜は涼しくなってきましたからね。温かいのも、甘いものも嬉しいです」
　アリーセは嬉しそうに包みを受け取った。
「おー、からす座が光ってるデザインのがあるわー」
　ペンダントに目を移した陽太は、目ざとく気に入ったものを見つける。
「雑貨屋さんとかも出店してるんすね……」
　連れてこられた蒼志も珍しそうにペンダントを眺める。
「こーいうの好きだから、買っていこっと。アリーセちゃん、アリーセちゃん。からす座を見上げる長靴を履いた猫のペンダントを下さい♪」
「はい、ありがとうございます。からす座が好きなんですか？」
　二人が話している間に、蒼志も気になるペンダントを見つけた。
「……牡牛座を見上げる百万回生きた猫とか……これいいな、ください」
「二人とも、猫がお好きなんですか？」
「うん、嫌いじゃないけど」
　牡牛座は蒼志の星座であった。