寝子島ナイトマーケット｜リアクション

寝子島ナイトマーケット

☆ナイトマーケット、開幕！

「なんだか楽しそうね？」
　放課後、寝子高１－５の教室。帰り支度をする八神修に野阿胡桃は声をかけた。
「わかるか？　少し寄る所があってな。野阿も来るか？」
　クールな優等生の修からの誘いに、胡桃は乗ってみることにした。
　素敵な予感を感じて。

　普段は静かな寝子ヶ浜海浜公園は、異邦情緒あふれる夜市と化していた。
「どこで着替えてきたの？」　
　自らも私服に着替え済みの胡桃は修に尋ねる。
「内緒だ」
　手には袋状の鞄を持った修は言う。ちなみに鞄には携帯や教科書が入っている。
「指定鞄もないし」
「それも内緒だ。夜の繁華街を制服でうろつく訳にはいかないからな」
「お待たせなのだ～！」
　学校ジャージ＋陸上部Ｔシャツという姿で走ってくるのは後木真央。
　修にナイトマーケットの事を教えて貰い、意気込んでバイト代握りしめてやってきた。
「胡桃ちゃん修ちゃん、本日は宜しくなのだ喉元まで食キングの旅なのだっ」
「よろしく。楽しんでこー！」
　元気な真央に、胡桃も気さくに答える。
「さて、どこから行こうか」
　異国情緒を楽しみつつ巡ろうと、小物などの店に目を向ける修だが。
「任せろ食い倒れ全制覇なのだ、食キングの血が騒ぐのだ～！」
　真央には食べ物の店しか見えていない。
「色々屋台が出てるねー。なにか変わった食べ物とかないかな？　普段あんまり見かけないよーな食べ物とかさ」
　胡桃もそんな調子なので、まずは食べ物の店に向かうことになるのだった。
「ソーダブレッドだって。どんな食べ物なのかな。食べてみたいなー」
　近くの店に張り出された食べ物の名前に胡桃が反応する。
「ソーダブレッドは、イースト菌の代わりに炭酸水素ナトリウム(重曹)を用いたクイックブレッドの一種だ。アイルランド名物だな。アイルランドでは、小麦粉として薄力粉が用いられ、グルテンの多いパンに比べてケーキに近い食感になるんだ」
　修が説明する。
「いらっしゃい」
　赤い髪、青い目の店主が声をかけてきた。
　出店しているのは、シーサイドタウンのアイルランド料理店『spraoi』のオーナー兼店長をしている七條蛟だ。
「百聞は一食にしかずなのだ、ソーダブレッドとアップルパイとシェパーズパイをくださいなのだ、飲み物は……」
　さっそく頼んでいる真央に修が苦笑する。
「最初からそんなに食べるのか、さすがだな」
「大丈夫、量は少ないのだ余裕なのだ」
　真央の言葉に蛟が注釈を入れる。
「他のお店の物も食べれるように数等分して量と料金を調整してるから。足りなかったら料金上乗せでもう少し大きめに切り分けるから言ってくれ。ソーダブレッドはナッツ入り、りんご入り、レーズン入りがあるよ」　
「それじゃ、三種類全部お願いしますなのだ！」
「あたしはソーダブレッドのりんご入りをください」
　ちょっと迷って、胡桃はりんご入りを頼む。
「はいはい」
　蛟は気さくに注文に答え、手早く商品を切り分けていく。
「美味いのだ！　カリッとふわっと、不思議な食感なのだ」
　ソーダブレッドを食べた真央が感激し、
「なるほど～、ちょっと不思議な感じだね。うん、美味しい。ほかのも食べてみたくなってきたなあ」
　胡桃も同意する。
「それじゃ俺もソーダブレッドをもらおうか。レーズン入りで」
　修も注文してみる。
　寄り道ナイトマ、食べ歩きの旅はこうして始まった。

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