寝子島ナイトマーケット｜リアクション

寝子島ナイトマーケット

☆食べ盛りナイトマーケット

　糸目金髪の高校二年生呉井陽太は、友人の須崎蒼志を誘ってナイトマーケットにやってきた。
「なんか日本じゃないみたいな感じすよね……小説とかで見た気がする」
　１８５ｃｍ、５８ｋｇと、ひょろっと細長い体格の蒼志が言う。
　実はブラックホールな胃を持つ痩せの大食らいである蒼志は、表情に乏しいものの食べ物に興味津々だった。
「アイルランドの料理、全部美味しそうだなぁ」
　陽太が言う。蛟の店にやってきた二人は商品を見回す。
「ソーダブレッド……？　ソーダ味……な訳ないすよね……とりあえずこれに限らず一通り食べてみるすか……」
　蒼志の言葉に笑いながら、陽太は頷く。
「ドレも食べてみたいし、せっかくだから１種類ずつ頼んでミルクティーもお願いしよっと♪　蒼志君は、注文どーするぅ？　結構量食べる方だし、やっぱり全種類頼んじゃう？」
「いらっしゃい。料金上乗せで量を増やせるよ」
　蛟が笑顔で声をかける。
「ん、いいね。なら、一つだけ上乗せした料理を奢ってもいいよぅ♪」
　陽太が先輩らしいところを見せると、
「え……先輩奢ってくれるんすか……？　一つだけ……」
　無表情ながら本気で悩みだす蒼志。
「それじゃあ、がっつり食べれそうなシェパーズパイで、お願いします」
　悩んだ割に結局自分で購入分も料金上乗せで多めに頼む蒼志である。
　一通り商品が運ばれてきた商品に、まずは二人とも無言でかぶりつく。
「シェパードパイもアップルパイもサクっとして美味しいー☆　ソーダブレッドも初めて食べたけど、香ばしくてうまうま」
　嬉々として感想を話しながら食べるのは陽太。
　黙々……もぐもぐと無表情に、でもがっつり食べる蒼志。
（美味いのは幾らでも入るし）
　と思っている。

「あ、そうだ……っ」
　何か思いついたらしい陽太が再び蛟の屋台へ向かう。
「店長さん、すみません。友達に差し入れを持って行きたいので、ソーダブレッドのりんご入とホットミルクティーをお土産用に包んで下さい」
「ん、あいよ」　
　手際よく商品を用意する蛟。
　一方、目の前の食べ物を食べつくしてしまった蒼志は。
「あぁ……あっちの店も気になるすね」
　肉の焼ける匂いにつられ、ふらふらと別の店に向かってしまう。
「ちょ、蒼志君が見当たらない……！？」
　戻ってきた陽太は慌ててきょろきょろと周囲を見回す。
　陽太は実は人ごみが苦手だ。正確には、昔家族とはぐれて以来、連れを見失うのが不安なのだ。
　別の屋台で何か食べている蒼志を見つけるまで、時間としてはわずかなものだったが。
「もー、はぐれたら迷子になるでしょー」　
　つい真剣な顔で言ってしまう。
「……え、迷子にならないすよ。会場内にはいるっす」　
　タイの肉料理をもぐもぐしている蒼志の顔には不安のかけらもない。
「……次行くよぅ」
　照れ隠しになんでもないように言って、陽太は片手の包みを傾けないよう気をつけながら、もう片方の手で蒼志の服をつかみ引っぱっていく。
　蒼志は肉をもぐもぐしたまま引きずられていくのだった。

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