寝子島ナイトマーケット｜リアクション

寝子島ナイトマーケット

☆デート……？

「下宿先の夫婦が今日デートで。二人でナイトマーケット行くんだって」
「……それは結構なことだな」
　突然クラスメイトの志波武道が振ってきた話に、楪櫻は戸惑った。
「うん仲がいいのは結構なんだけどね。残された俺は、ボッチ飯さみちぃーって事で。どうかな裏番長な櫻ちゃぁん☆」
「誰が裏番長だ。ナイトマーケット……祭りみたいなものか？」
　武道のおちゃらけた物言いに突っ込みながら、櫻は誘いを承諾した。

　やってきたナイトマーケット会場。
　櫻は慣れていない様子できょろきょろしている。
「夜だというのに随分と人がいるんだな……こういうのもたまには良いな」
　いつもの一つ結びを解いた髪型の櫻は言う。
（イメチェン？　こういうのもいいな）
　武道は櫻の髪にそんな感想を抱いているのだが口には出さない。
「七夕祭りでも出店は出ていたが、それともまた雰囲気が違う。見た事がない食べ物もいろいろと売ってるな」
　そんな櫻に気を配りながら、武道は案内するように会場を巡る。
「ブドー辛いのだぁいすき！　食べようぜー櫻ちゃーん！」
　エスニック料理の屋台に向かう。
「こういうのが好きなのか」
　櫻は家庭環境的に和食ばかりで、エスニック料理系は食べた事がない。
「櫻ちゃんは辛いのダイジョーブ？　辛くないのもあるぜー」
「うむ、なにしろ初めてなので食べてみないとわからない」
「それじゃおじさん、櫻ちゃんには辛さ抑え目でプリーズ。俺のは遠慮なくドントコイ！」
　そんな注文をし、品物を受け取って席に着いた後。
　ふと真顔になった武道が小さな声で言う。
「……俺なんかに付き合ってくれてありがとうな」
「……えっ？」
　聞き返した時には、武道はいつものペースに戻っていた。
「さぁ食べる！」
「ああ、いただきます」
　櫻はそっと料理を口に運んでみる。
　控えめとはいえやはり辛い。だがその中に旨みがあって、口の中や体が熱くなる感じが心地よい。
「うまい」
「おー櫻ちゃん、イケるクチー☆」
　武道が安心したように笑う。
「よし、次行こうか」

　歩いていた櫻は、人混みの中に見慣れた顔を見つけた。
「相原先生」
「あ、ホントだ、まゆセンセ！　ハァイコンバンチャ！」
　武道の声に、担任の相原まゆも気づいたらしく手を振っている。
「こんばんは、ブドーくん、櫻ちゃん。あらデート？　なかなかやるわね」
「こんばんは。先生……あまりからかわないで下さい」　
　ニヤニヤ笑うまゆ先生に軽く挨拶してそう言った櫻だが。
「デートじゃないよぉ、俺なんかが彼氏だったら櫻ちゃん困るだろテヘ☆」
　オーバーアクションの武道に戸惑う。
（別に困りはしないが……）
　だがそれを口にするのは何か恥ずかしく。
　言った武道も、
（……自分で言ってなんか落ち込んできたぞ）
　と思っていたりする。
「あら、何が困るの？」
　まゆ先生はそう言って笑った。
「素直になればいいのに。じゃ、楽しんでらっしゃい」

　まゆ先生と別れた後も、武道のもやもやは止まらなかった。
　にぎやかな音楽がふと途切れた瞬間。
「俺、普段とどこか違ったかな」
　口をついてそんな言葉が出た。
「えっ？」
（普段と違ったか、って……何か違ったのだろうか……？）
　いつもより何だか楽しかった気はするが……と思った櫻だが、それは私の話だ、と思い直す。
「いや……そんな事はない、と思うが」
「ごめんちょっとトイレ行ってくる！」
　武道は猛ダッシュでその場を離れた。
（顔洗ってシャキッとしたほうがいい……）

　一人になって櫻は思う。
（志波に案内されていろいろと見て回って……）
　以前もそんな事があったし、その時も楽しかったと思う。
（だが今日は……何故こんなにも楽しかったのだろうか？）
　　

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