●激辛カレー一本勝負！　～華麗なるカレー屋さんにて～


　カレーと言えば、『財前 華蓮の華麗なるカレー屋さん』である。
　言い出しっぺの栖来 衣夢と、華麗なるお財布を持っているであろう獅子島 市子女史に率いられた一行は、カレー屋さんにつくと人数分のカレーを注文した。辛さはレベル５、大盛りである。

　なお、勝負の噂はすぐに広がり、いまや参戦者は下記の通り。
　不良たちを代表して、マタ工の赤い高波、木多肩 血字礼。
　寝子高のヴァンパイア・ガール、栖来 衣夢。
　寝子高のはらぺこ少年１、握 利平。
　寝子高のはらぺこ少年２、御剣 刀。
　寝子高の皿死菜蕎麦、如月 庚。
　それから「同行者全員奢る」とのたまった神、獅子島 市子女史と、市子女史に誘われた伊織 源一、楪 櫻。
　雨降って地固まる、喧嘩の後は仲直り。
　折角来たのだ、バザーを楽しんで帰ってくれたら何よりじゃないか、と彼らは少なからず思っていた。
「つーか……なんだ……邪魔するぐれぇならオメーらも自分の学校でなんかやってみりゃいいじゃねぇかよ……」庚が血字礼に提案する。「存外、楽しいかもしれねぇぜ……？」
「ハ、あたしら、そういうのは性に合わないっつーの」
「素直じゃねぇなぁ……」
　ちなみに庚や衣夢は自分の分や血字礼の分はお金を出す、と市子に申し出たのだが、市子曰く。
「遠慮スンナ。学生さんのお財布事情はわかってっからさ」

　そして、この勝負に名乗りを上げた人がもう一人。
「次期生徒会長と目される私が不良程度に負けては話にならないでしょう。とくにカレー勝負ではね！」
　剣崎 エレナはそう言って、何故か店主の財前 華蓮をビシリと睨みつける。
「ホホホ、勝ってごらんなさい剣崎さんっ！」
　華蓮は高笑いで応えたのち、厨房に向かって歌うようにこう叫んだ。
「お客様に辛くてひーひースペシャルなカレーをお出しして～ラララッ！」

　カレーが運ばれてきた。
　がっつり大盛りライスの上にかかったチキンカレーは唐辛子の色なのか真っ赤だ。
「このカレーを先に食べた人が勝ちでいいわね」
　衣夢が不敵にみんなを見渡す。小柄な彼女が一番不利そうではあるが、衣夢だってそれなりに食べる方だし、それに何より負けられない戦いがそこにはある。
（勝てばよし、負けてもカレーが売れるだけだから問題なし……これで大人しくしてくれればいいのだけど）
　どっちに転んでも衣夢としては勝ちだ。
「さぁ、始めましょうか……レディ、ゴー！」

　男子陣が勢いよくカレーを掻きこみはじめる。
「「辛～～～ッ！！」」
　辛い物が苦手な刀が舌を出しながら呻く。「水！　水！」
「どうぞ～♪」とオペレッタ風に歌いながら水を継ぎ足す桃川 圭花。
「財前先輩はカッコよくて素敵で大人っぽくて美人で素晴らしいアル～」
　こんなときも華蓮を讃える歌を忘れない畑中 華菜子。
「ソイヤッソイヤッ！　財前カレーは寝子高一♪」
　踊りは踊りでもいわゆるヲタ芸で盛り上げる桃原 空音。
「オホホ～♪」
　みんなが食べている周りを奇怪なテンションでクルクル回りながら歌う華蓮。回転するたびふわりと広がる丈の短いスカートから、ちらっ、ちらっ、とレースのアンダースコートが見え隠れすると、この魅惑のチラリズムに、空音のテンションがさらに鰻のぼりになる。
「ひゃっほう！　あたし財前先輩についてくよ！　セレブセクシーブロンドゴージャスおぱんつ！」
　……この店はいま、この上なくカオスだった。
「あれだ……うん、」
　店の奥にいた八重崎 五郎八は嘆息し、メガネの位置を静かに直す。
「……私がストッパーにならないとだね」
　もしかしたらこの店は、厨房の管理やこまごまとした事務作業を担当していた五郎八が冷静にフォローしてくれていたお蔭で無事運営できていると言っても過言ではないのかもしれない。
　はふはふと雪色のツインテールを揺らしながらカレーを頬張る衣夢を見ながら五郎八はひとりごちる。
「衣夢さん、カレーで勝負ってすごくいいアイデアだわ。うちの売上的にもね」


　しばらくするとカレー勝負も大詰め！
　庚や櫻はマイペースにカレーを味わい、刀は辛さとの戦いに苦悶、血字礼や衣夢も健闘しているが、このままだと勝者ははらぺこ利平か、巨躯の源一かという展開！
　と、ここで、エレナが追う、追い上げる！
「オホホ～カレーも食べられないのに生徒会長だなんて荷が重すぎじゃないですの～♪」
　という華蓮のエールで火が点いて、これまでとは比べものにならない勢いでカレーを胃に流し込んだのだ。
　そして、なんと！

「か、完食！　勝者、剣崎エレナ！！」

「見た？　これが寝子高の底力よ！　……げふ」
　二割増しになったお腹をさすりつつ、エレナは血字礼と華蓮に向かって胸を張ってみせる。

　と、そこにすかさず現れたのが桜崎 巴と骨削 瓢だ。
「あー、剣崎、剣崎、剣崎エレナの握手券一枚百円～。カレー勝負の勝者、剣崎エレナだよ～」
　ダフ屋じみた巴は血字礼の眼前で握手券をちらつかせる。
「なんだいそりゃ」
「１０枚集めりゃ、そこの剣崎エレナと一回握手できる券さ」と巴が言えば、瓢も道化めいた笑みを浮かべ、
「ん、いらない？　そいつぁいけないネェ、お天道様も許しゃしないだろうねぃ」
　続けて瓢はなにやら脳を素通りするような小難しいことを捲し立てるが血字礼はちんぷんかんぷん。
　頃合いを見計らって巴が瓢を制する。
「よしな骨削」
　図らずも瓢がムチ役、巴がアメ役となっているようだ。
　巴は血字礼の耳元で囁いた。
「あんた達……ホントはあたし達が羨ましいんだろ？」
「な……」
「正直にお言いよ、あたし達ばっかり楽しんでるのが許せない……そうだろ？」
　不機嫌な沈黙は、指摘が少なからず的を得ていたことを巴に確信させた。そこで巴は一計案じ、にやりと笑ってこう言った。
「今日は折角の祭りなんだ、寝子高もマタ工もあるもんかい。一緒に楽しむのが最大の罪滅ぼしって奴さ。……ん？　どうやりゃいいかって？　そりゃあ決まってるだろ……」
　巴と瓢は代わる代わるこそこそと血字礼に耳打ちする。

「ほらほら、そのへんにしときなよ」
　市子女史は不穏なふたりを追い払うと、血字礼に言った。
「カレー、うまかったろ」
「あ、ああ、まあね」
「ぶち壊したら食えてねんだぜコレ。そしたらもったいねーじゃん。あの店もあの店もうめーし、アソコなんて木多肩に似合いそーなアクセ売ってっし」
　市子は、に、と笑む。源一も櫻も頷き笑顔だ。ほかのみんなも。

「さー次はドコ行く？　付き合うし」