【生徒会選挙】歴代生徒会長からの挑戦状～寝子高バザール！｜リアクション

【生徒会選挙】歴代生徒会長からの挑戦状～寝子高バザール！

●プロローグ

　ある種の物事というのは、唐突に始まり、あっという間にすべてを嵐の渦中に呑み込んでしまう。
　寝子高の生徒会選挙は見事にこの性質を備えていたようだ。

「投票用紙、誰か作った？」
　放課後。選挙管理委員たちの臨時の根城、視聴覚室。
　普段はのんびりな猫島寝太郎が、独楽鼠のようにくるくる働いている。
　嬉々とした様子なのは、慌ただしい準備の数々が、お祭り騒ぎみたいで楽しく感じられるからだ。
　実際、選挙管理委員たちの仕事は多岐に渡っている。投票箱や投票用紙など通常の選挙準備のほかに、『歴代生徒会長からの挑戦状』と呼ばれる課題の準備もある。
　今年の挑戦状は、選挙前日にあたる日曜にバザーを開いて、まだ導入されていない奇数組のエアコンの頭金１００万円を集めること。寝子高バザールと銘打ったそのイベントの運営も選管の仕事である。
「バザーのお知らせは？」
「いま当日のパンフレットの原稿作っとりますよ」
　綾辻綾花と頭を突き合わせていた倉前七瀬がひらひら、と手を振ってこたえる。
　綾花は各陣営のリストと校庭の見取り図を見比べながら先輩に相談しているところだった。
「混雑を予想して通路は広めにとって、お店の設置場所は各陣営の抽選で公平に決めるのがいいですよね」
「綾花は一年生なのにしっかりしとりますね。それがええと思います。折角ですから、どの場所にどげんお店が設置されるのか、来場する人にわかりやすく伝えたいですね」
「はいはい！」元気よく手を挙げたのはマリベル・ロイスだ。
「校庭や建物の簡単な見取り図を書いた地図を作ったよ。あとはここに、どこで何が売っているかとか情報をつけ加えてパンフレットに載せて皆に配るってのはどうやろ？」
　七瀬はにっこり。
「それでいきましょう」

◇

「よう！　頑張ってるか？」
　ダンボール箱を抱えた都築弦一郎が、足で器用にドアを開けて入って来た。寝太郎が慌ててテーブルの上を片付け場所を開ける。
「お疲れさまです。先輩、これは？」
「トランシーバーと腕章だ。ひとり一つずつあるからあとで受け取っておいてくれよ」
「うわぁ……なんかわくわくしちゃいますね」
　寝太郎は目を輝かせる。ところで、と弦一郎が聞いた。
「原稿出来たか？　印刷室で坂内が待ってるぞ」
「投票用紙はできたよぉ」と寝太郎。
「パンフレットの方はまだですね、あとちょっと」と七瀬。
「じゃあ投票用紙を先に印刷に回すか。誰かこれ坂内に届けてくれ」
　弦一郎が声を掛けると、奈良橋博美が張り切って手を挙げた。
「運び仕事なら俺の『トンビ便』にお任せ！　びゅん、と行って帰って来るさ」
「おー、任せたぞ」
　意気揚々と頷いて、博美は原稿を入れた書類用のバッグを手に視聴覚室を飛び出してゆく。

　博美の『トンビ便』は早くて正確。人目のないところでは＜トンビの飛翔＞も使って、スピーディに配達する。もっとも、廊下は走らない。下手に走ると危ないことは、昼休みの焼きそばパンを巡る戦いの中で痛いほど学習した。投票用紙の次はパンフレットの原稿、そのあとは先生に伝言。『トンビ便』として学内を奔走しながら博美は生徒たちの様子にも目を配る。
「今のところ買収絡みの放課後会合的な不正はないみたいだな。よきかな、よきかな」

　そんな仕事の合間に聞いたとある情報を抱え、博美が文字通り視聴覚室に飛び込んできた。

「おーい、みんな。これ見ようぜ！」
　教室の前のスクリーンにノートパソコンの画面が映し出される。
　開かれたのはネコネコ動画のとあるページ。
「みんなのアニキ、ゴールド千駄ヶ谷による『かってに応援ちゃんねる！』だってさ！」
　知ってる、という声と、知らなかった、という声が交互に上がり、じゃあ見よう、なんてことになって作業のＢＧＭ代わりに動画が再生される。途中、
「あれ？　なんか画面の端にちらちら写ってるドリルって剣崎先輩じゃ……？」
　なんて声も上がったり。
「なんや盛り上がって来たな」
　軽い気持ちで選管の仕事を引き受けてしまったマリベルも、こうなっては気合が入るというものだ。
「ここは張り切って！　仕事をするで！　えいえいおー！」

　そんなドタバタな平日を経て、いよいよバザー前日となる――。

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